巻頭特集

窓 光と風と表情と

美しくて面白い窓を探していたら建築家 保坂猛さんの作品に出会いました。今回はたくさん出会った中から4 つの「保坂猛さんの窓」をご紹介します。

まず、建築家 保坂猛さんに窓についての思い出を伺いました。

 大学への進学を機に上京して一人暮らしを始めたんです。
 鉄筋コンクリート造のワンルームマンションで。そこには、細長く伸びた部屋の突き当たりに唯一の窓がありました。でも、外の環境があまり良くないうえに、開けても風が抜けないのでその窓が開け放たれることはなく、玄関の鉄の扉をバタン!と閉めると社会との関係が断たれるような感覚でしたね。
 しかも年中エアコンをかけるでしょ。だからお腹を壊したり、鼻水が止まらなかったり何となく慢性的に体調が優れませんでした。僕の郷里は山梨の田舎で、縁側があって開放的な家で育ちましたから閉ざされた部屋でのエアコン生活が体に合わなかったんでしょうね。それでもしばらくはそこで暮らしていたんですが大学院に上がる年、ついに出ることにしたんです。
 引っ越し先は古い木造アパート。賃貸住宅としてのランクは明らかに下がりました。でも、大きめの窓がたくさんあってお風呂にも窓があって風も光もたっぷり入ってくるんです。”なんて快適なんだろう“と思いました。建築を勉強する者として「窓って大切だな」と痛感させられた思い出です。

保坂猛さんの窓
[ HOUSE 119 ]神奈川県 竣工:2014年
やすらぎとワクワクの窓

 のんびりと流れる川、穏やかに広がる住宅街。奥には丹沢山地の伸びやかな稜線が浮かび、天気が良ければ富士山がぽっかりと顔を出す。この家のリビングに居ると、まるでこの気持ちのよい風景の一員になったかのようだ。
 「海と旅が大好き」というご家族のお話から、保坂さんはこの家に〝やすらぎとワクワク?を同居させようと考えたのだそう。それを叶えるために大きな役割を担っているのが連々と並んだ窓だ。



やすらぎを生む窓

[ HOUSE 119 ] のリビングからは、四季折々の風景が大パノラマで楽しめる。

 ご主人は家の購入を考える前からこの場所を気に入っていたと言う。
 「以前から通勤で通るたびにこんな風景が望める家に住みたいなと思っていました。実家の前も畑で開放的な景色を見ながら育ちましたから、私にとってはそれがやすらぐ家の条件だったのかもしれません。その意図を汲んで保坂さんがこの窓を作ってくれました」とご主人が話すように、この窓はただそこにある風景を見せているだけではない。ご主人が思い描いたやすらぐ風景を見せるために、いらないものを排除し、見せたいものが際立つように考えられているのだ。鍵を握っているのは、窓の位置と大きさだ。
 まずは、南から西へ川に沿って窓を並べることでパノラマ状に視界が開け、より開放感が得られる。

 次に、窓を地上から約2mのところに配置することによって不要な2つのものが排除されている。ひとつは、景色を邪魔する土手のフェンス。そしてもうひとつが、前を通る歩行者の視線だ。道路だけでなく、堤防の上を歩く人からも覗き込みにくくなっているので、日中はブラインドを全開にしていてもプライバシーは守られている。


 また、窓の大きさが天井から約70㎝下に留められているのにも理由がある。開放感を求めるならできるだけ広げたいところだが、そうしていない理由。まずは、目障りな電線が窓からの視界に入らないように。そして何より、部屋を快適な温度に保つためだ。
 南西に広く開口しているこの家の場合、ややもすると長時間に渡って床に照りつける直射日光によって、室温が異常に高くなる可能性がある。それを避けるため春夏秋冬の太陽の角度を想定し、窓を狭めて熱の取得量を低く抑えているのだ。
 やすらぎを生む窓は、心地よい風景を切り取るだけでなく、快適な温度やプライバシーを守ることも考えらているのだ。


ワクワクを生む窓

 外から見ると同じ高さに整然と並んでいる窓。ところが面白いことに、内から見るとそれぞれに高さや表情が違って見える。
 理由のひとつは、この家が扇状に建てられているから。窓は扇の緩やかな弧を描くように配置されており、それぞれに少しずつ違う方角を向いている。だから、見える景色も微妙に違ってくるのだ。

建物の左右両脇にあるリビングと寝室の床は高く、間にある子ども部屋の床は低くなっている。

 また、屋内はステップフロアになっており、部屋によって床の高さが異なる。そのため、外から見ると横並びの窓も、部屋によっては高い位置にあったり低い位置にあったりすることになり、当然、見える景色もそれぞれというわけだ。

雨の日などは高床部分の下で遊ぶこともできる。

ご主人のサーフボードとバイクの格納庫には扉をつけて。

子ども部屋から窓を見上げると空が見える。

 例えば、低床の子ども部屋からだと窓は見上げる位置にあるので、子ども達から見える景色は空だけ。しかし、彼らが成長して視点が変われば、空の向こうに山の稜線が見える日がくるかもしれない。そんな変化も保坂さんの アイデアのひとつだそう。
 毎日同じ景色を望みながらも、窓によって変化と発見がある。これが、保坂さんが創った、ワクワクを生む窓だ。


家族全員で寝ている寝室。広くはないが、窓のおかげで明るさと開放感は抜群。



保坂 猛( ほさか たけし)

1975年 山梨県甲府市生まれ。保坂猛建築都市設計事務所主宰。建築家。早稲田大学 芸術学校 准教授。広島工業大学 非常勤講師。横浜国立大学在学中に、友人と共に『建築設計SPEED STUDIO』を共同設立。2004年『保坂猛建築都市設計事務所』を設立。日本建築家協会(JIA)新人賞など受賞歴多数。
『ほうとう不動』:JCD design award 銀賞/イギリス WA Awards winner/香港 DFA Award winner
ドイツ contruct world award New Generation/日本建築仕上学会賞 作品賞 他
『HOUSE119』:日本建築学会関東支部神奈川支所賞/第60回神奈川建築コンクール 優秀賞
『窓辺のバルコニー』:第1回JIA神奈川デザインアワード 審査員河内一泰賞

保坂猛建築都市設計事務所 tel.03-5946-8909
〒162ー0801 東京都新宿区山吹町358 小磯大竹ビル202
http://www.hosakatakeshi.com/index.html