巻頭特集

WELCOME to my house

注目されて久しい「おもてなし」という言葉。
聞き慣れた言葉ですが、その理解や表現は人それぞれ。
今回は、そんな「おもてなしの心」が宿った
様々な家をご紹介します。

昔はほとんどの家にあった土間。上がり框に座ってご近所さんと世間話をする姿は、古き良き日本人の”人との関わり方“を象徴しているように思います。
内とも外とも言える曖昧な土間という空間が他人を気軽に招き入れる場であるように、自分と他人との境目が曖昧な日本人は、他人の身に起こった事でも我が事のように思う少々お節介な国民性を持っていたのではないでしょうか。

おもてなしとは一般的に、「もてなす」=「持って」+「成す」に接頭語「お」がついて丁寧になったもので「丁寧に応対する」に由来すると言われていますが、もう一説「表なし」=「表裏のない応対」が由来という見方もあるのだそう。 もし、他人の事を我が事のように思える日本人の心が「おもてなし」の根底にあるとすれば、「表なし」という解釈の方がしっくりきませんか。 今回の巻頭特集では、古き良き日本文化を生かした「おもてなし」で人気を集めている京都のゲストハウス「宿はる家」の小林さんに、お客様をお迎えするにあたって大切にしていることについて伺いました。

Lesson 1
町屋ゲストハウスに学ぶおもてなし
相手の望む体験を届ける

京都の人気スポット京都水族館から少し入った裏路地に立つゲストハウス「宿はる家 Aqua」と「宿はる家 Book」。表の喧騒が信じられないくらい静かで、古の面影も感じられる

「宿はる家」は築100年前後の町家を修復・再利用したゲストハウス。代表の小林さんは、文化としての町家を大切に考え、できるだけ本来の姿に近い状態でお客様をお迎えしています。
廊下を歩けばギシギシときしむ音がします。襖の向こうからは隣の部屋の話し声が聞こえてきます。小林さんは、不快なこととも捉えられかねないそれらのことが、日本人の心や文化を育んできたのだと言います。

「ギシギシと音が鳴れば、周囲に迷惑をかけまいと静かに歩こうとします。夜、遅ければ大声で騒ぐまいと思います。これは、何も知らずにやってきた海外からのお客様でも、古い家を知らない若い方でも、この家で過ごせば自然とそうなさいます。
もちろん、お寺を拝観したり割烹料理店で和食を楽しむのも素晴らしいことですが、こうして相手を思いやりながら過ごすというのも、日本文化に触れるということではないでしょうか?私が「宿はる家」を始めたのは、このように寝起きする場所が日本文化を伝えるのに最適だと思ったから。
そして、お客様が日本を感じたくて当家に泊まってくださるのだとすれば、これもおもてなしのひとつではないでしょうか」。 
町家が育むおもてなしの心はまず、相手を思いやるところから始まります。

虫籠に似ていることからその名がついたと言われている「虫籠窓」や明治初期に流行ったガス灯が町屋の風情を感じさせる

通り土間には昭和初期までは使われていたであろう竈が残っており、今も共同キッチンのカウンターとして使われている

ギシギシときしむ階段を上ると自ずと歩みが優しくなる

建具や照明器具などは、他の町屋から出た古道具を譲ってもらったものも



株式会社はる家 代表取締役 小林祐樹さん

奈良県に生まれ。アメリカで働く中で幼い頃から当たり前のように側にあった様々な日本の素晴らしさに気付いたのだそう。帰国後、一流リゾートホテルに勤めながらおもてなしの姿勢を学び、5年前に株式会社はる家を設立。5棟を持つ今でも、庭を掃いたり、花を生け替えたり、音楽を選んだり、細かなおもてなしはご自身が担当しているのだそう。


Lesson 2
町屋ゲストハウスに学ぶおもてなし
そこにしかないものを届ける

「宿はる家」の平均的な客室。季節の掛け軸と手入れの行き届いた坪庭が表情豊かに迎えてくれる

「宿はる家」は5棟の町家を再利用していますが、いずれも庶民の長屋といった佇まい。立派な玄関間や広々とした日本庭園があるわけでも、客間が煌びやかなわけでもありません。しかし、それぞれに表情があり、お客様によっては部屋を指定してこられることもあるそうです。

「不思議と一番狭い京間3畳の部屋は人気があります。理由はよく分かりませんが、私が思うこの部屋の魅力は、格子窓から差す朝のやわらかい光ですね。
日本人は昔から、自然の中に美しさを見出し、四季を愛でてきました。京都の町中は決して自然豊かとは言えません。だからこそ町家には自然を感じるための様々な工夫があって、お客様にはそれを楽しんでいただきたいのです。
例えば音。障子や襖は音が筒抜けですが、裏を返せば鳥の声、風の音が聞こえます。
また、狭いながらも坪庭があるので、庭師による四季の芸術を愛でていただけます。さらに、ささやかですが床の間があるので四季折々に掛け軸を掛け替えてお客様をお迎えしています」。

路地に面した人気の3畳間。格子のシルエットが美しい窓がこの部屋の表情を作っている

田舎に行けば存分に感じられる自然ですが、ここにはここにしかない四季の楽しみ方があり、それを感じてもらいたいから庭を掃き清め、打ち水をし、掛け軸を掛け替え、季節の風物を飾る。さりげなくおもてなしの気持ちを表現しているのです。


[ 取材が7月初旬だったため、
  夏のおもてなしがあちらこちらに ]

床の間には、夏野菜の茄子の絵とお客様をお迎えするために掃き清められる土間 夏を待ちわびる句の掛け軸が

間もなく迎える七夕をお客様に楽しんでもらおうと、短冊が用意されていた

涼しげな風鈴の音に夏の古都の風情を感じることができる

お客様をお迎えするために掃き清められる土間

打ち水され新緑がひと際眩しい初夏の坪庭

Lesson 3
町屋ゲストハウスに学ぶおもてなし
心地よい距離感をつくる

お客様の書斎にもなる図書室タイプのラウンジ。京都に関する書籍の他、雑誌やコミックスなど幅広く用意されている

 例えばあなたが友人の家に一泊するとします。昼頃に着いて翌日の夕方まで一緒に過ごすとして、どう迎えて欲しいでしょうか?四六時中一緒にいて、至れり尽せりされたいでしょうか?
一概には言えませんが、たとえ友人でも気は遣いますから、自分のために忙しそうに動く友人を見れば手伝いたいと思うだろうし、自分のペースもあるので次々と何か出されても調子が狂うということもあるでしょう。
心地よく過ごしてもらうには、心地よい距離感も大切だと小林さんは言います。

「例えば、何十万も払って超一流のホテルに泊まったなら、座った瞬間に好みの飲み物が出て、歩き始めた瞬間に荷物を持って後ろから付いて来て欲しいでしょう。しかし、当家に泊まってくださるお客様がそれを望んでいるとは思えません。
私どもはゲストハウスですから、お客様に暮らすように過ごしていただくために共同のキッチンやラウンジをご用意しています。
お客様が私どもを選んでくださるのには、安いからというのもありますが、自分の時間を自分でコントロールしたいからということもあると思うのです。自分のタイミングでお茶を入れ、情報は自分で仕入れる。至れり尽せりが必ずしも心地よいとも限らないのではないでしょうか。

図書室のドリンクコーナー。お茶や紅茶、コーヒーなどを自分で入れられるよう整えられている

その代わり、お客様が心地よく過ごすためのサポートをしています。例えば、ラウンジはゲスト同士の出会いの場所ですが、各部屋が広くないので、リビングや書斎の役目も果たしています。そこで、それぞれの役目が果たせるよう3種類のラウンジをご用意しました。一人でのんびりと過ごしてもらう場所。大勢で楽しんでもらう場所。読み書きをしてもらう場所。
一人でのんびりしていただくラウンジはやや狭めで小さなテーブルと椅子を二脚。窓からは坪庭を眺めていただけます。

お客様のプライベートを守りながらも、常にサポートできるよう傍に仕えているスタッフ。フレンドリーな笑顔が嬉しい

大勢で過ごしてもらえるラウンジは畳の間で、何人でも席につける大きめのテーブルを置いています。
書斎代わりのラウンジは図書室として様々な本、特に京都の事が学べる本を揃えています。
それと、どのラウンジにもコーヒーやお茶とコップ類、シンクと冷蔵庫を揃えています」。

心地よく過ごしてもらいたいからお客様に任せる。これは家庭においてお客様を迎える時も同じではないでしょうか?
気を遣われると疲れる。でも放って置かれると歓迎されていないのかとも思う。このバランスをとることも、相手が心地よくなれるおもてなしの極意だと教えていただきました。

お客様が見てきた京都または、これから見たいと思っている京都をより深く知ってもらうため、京都に関する様々な書籍を取り揃えている

一人または二人で静かに過ごしたいお客様のためのラウンジ「翠の間」。窓からは苔むした坪庭が望め、コーヒーやお茶も用意されている

 

大勢でも過ごせるラウンジ「格子の間」。この時は祇園祭の期間中で屏風祭が行われていた。山鉾巡行が動の祭なら、「屏風祭」は静の祭とも言われ、各山鉾町内の家々が秘蔵の屏風を公開するお祭り。「宿はる家」のラウンジにも四季の巡りを描いた大きな屏風が飾られていた。



取材協力 
Hostel HARUYA Aqua/Book/Terrace


京の町屋文化を暮らすように体感できるゲストハウス。京都の町全体をおもてなしの場として考え、銭湯体験や西本願寺の朝のお勤め体験などをアクティビティとして積極的に提案している。宿泊費がリーズナブルなのも嬉しい。

http://www.yado-haruya.com

総合案内 
TEL.075-533-3310(8時半~11時/16時~21時)
京都市下京区和気町1番地12(宿はる屋Aqua)

※写真は「宿はる家 Terrace」