巻頭特集

HAVE IDEAS! —— アイディアのある家

アイディアは、モノゴトを好転させる。アイディアが活かされれば、そのモノゴトは便利になったり、良くなったりする。しかし、アイディアの力はそれだけではない。アイディアは、それを実現させる楽しみと、実現させた時の達成感も持ち合わせている。つまり、アイディアは人を二重に幸せにしてくれるというわけだ。今回は、そんな幸せの詰まった家をめぐる。

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「あくびカフェー」に長く連なる窓は、取り壊しになった木造校舎から移築したもの。まるで映画のセットのようだ。窓の外は、奥のゲストハウス「あなごのねどこ」へつながる土間の通路となっている

古い家を、古いもので新しくする
「あくびカフェー」とゲストハウス「あなごのねどこ」(広島県尾道市)

瀬戸内海を望む斜面にレトロな町並みを残す、坂と路地のまち「尾道」。しかし、その景観を作り出している懐かしい風情の建物には空き家も多い。それが朽ちたり、取り壊されたりすれば同時にこの町の魅力も失われかねない。
そんな危惧から、2007年に立ち上げられたのが「NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト」だ。その名の通り、空き家を再生させる活動なのだが、ただ補強したり、管理する住民を斡旋したりするだけではない。メンバーには、IターンやUターンなどの若い外からの参加者も多く、ほとんどが建築素人であることから、柔軟かつ奇想天外なアイディアで、眠っていた空き家を次々とおもしろい物件へと生まれ変わらせている。
その中の一つ、ゲストハウス「あなごのねどこ」と「あくびカフェー」。ここにも、楽しい上に安く仕上がる、たくましいアイディアが詰め込まれている。プロジェクトメンバーで、この物件再生の中心人物でもある店主の津留(つる)さんに話を聞いた。

津留 謙太郎さん
漫画家で「うなぎのねどこ」並びに「あくびカフェー」の店主。
安い一軒家に誘われて東京から尾道へ。
空き家再生の技量はプロジェクトのお墨付き。

 海路の要所であったことから商人の町として栄えた尾道。京都と同じく、建築当時の節税のため、間口が狭く奥行きの深い建物が今でも多く見られる。そんな建物をリノベーションし、1階手前の旧店舗部分を「あくびカフェー」に、1階奥と2階の旧住居部分をゲストハウス「あなごのねどこ」として再生させたのは昨年のことだそう。
「基礎工事はプロに任せますが、それ以外はデザインから図面から、壁も床も全て自分たちで仕上げます。大変ですが、素人が家なんて大きな作品をつくるチャンスはそうありませんから、モノづくり好きにはたまりません。何軒も再生させたその蓄積で、素人ですが剛毛が生えて、たいていのことならできるようになりました」
と津留さん。

Idea 01
引き出しを食器棚に階段をカウンターに

キッチンの壁面に取り付けられた食器棚。よく見ると、それぞれ異なった取手がついている。
これは、空き家に残された家財道具のさまざまな引き出しを組み合わせてつくられた古くて新しい棚だ。また、使い込まれた風合いが魅力的なカウンターは、木造校舎で使用されていた階段の板なのだそう。

カウンターなどを支える部分はコンパネを板でサンドし強度を出している。コンパネの断面はタイルで装飾(あくびカフェー&あなごのねどこ)

木造校舎の階段を再生したカウンター(あくびカフェー)

引き出しを組み合わせた壁面つくり付けの食器棚(あくびカフェー)


アイディアの素
残された「家財道具」と、素敵にくたびれた「廃材」と

空き家には前の住人の家財道具が残されていることが多いのだそう。このプロジェクトではそれらも廃棄せず、再生させている。また、リノベーション時に行き場を失った廃材も、次のリノベーションの材料として再利用される。
通常は作るために材料を用意するが、空き家再生の場合、残された家財道具や行き場を失った廃材などの材料をどう使うかが課題であり、アイディアの素になるようだ。この物件においては、取り壊しになった木造校舎から出たそれらを上手く使うことがアイディアの素となっている。


Idea 02
段差、鴨居、演出で空間を仕切る

『あくびカフェー』は床の高さと鴨居、そして演出によっていくつもの空間に仕切られており、誰もがつい探検したくなる店。
今から何か物語りが始まりそうな雰囲気が漂う。

建具や什器は、学校で使用されていた時のまま再利用されている(あくびカフェー)

くつ箱は本棚として再利用され、奥と手前の空間を仕切ている。黒板と時計の組み合わせは学校そのもの(あくびカフェー)

Idea 03
バラバラの窓を組み合わせて新しい表情に

 枠のデザイン、ガラスの種類もバラバラな4種類の窓をパッチワークのように組み合わせ、店先に何とも軽快な表情を作り出している。

表情豊かな「あくびカフェー」正面の窓

 いずれの内装も津留さんのデザインによるものだが、そのアイディアの組み立て方について聞くと「本棚の中に寝るみたいな」など「○○みたいな」という本来の姿からはかけ離れた物のイメージがよく聞かれた。使い勝手は最終的に調整することにして、アイディアの始まりは大胆な遊び心のようだ。

「あくびカフェー」の窓に沿うように、学校の廊下にも思える長い土間の通路が奥のゲストハウス「あなごのねどこ」へとつながっている。さらに進むと、小さな日本庭園へと抜ける。

さまざまな時代のさまざまなスイッチを並べて使用。

「あなごのねどこ」にある宿泊客専用のキッチン。置かれている食器棚やテーブル、食器や扇風機にいたるまで、空き家から持って来た、使われなくなった家財道具たち。この家の風合いにぴったりだ。

○○みたいなから広がるアイディア

Idea 04
「本棚に寝る」みたいなベッド

ドミトリー(相部屋)のベッドは全て津留さんデザインの手作り。部屋の形状上、ベッドが3つしか入れられなかったこちらのスペースでは、デッドスペースを本棚にすることでまるで本棚の中にベッドがあるようにデザインされている。また、本棚の奥や下段のベッドの下に生まれるスペースは収納として活用されている。

 

本棚の背面の板が開閉できるようになっており、奥は収納として利用されている(あなごのねどこ)。

Idea 05
「虫かごに寝る」みたいなベッド

 「箱の中で寝る感じにしたかったんですが、熱や湿気が溜ると寝苦しいので格子にしました」と言う女性専用ドミトリーのベッドは、さながら家の中に設えられた大きな鈴虫のかごのようだ。

女性用ベッドは畳敷きになっており、場所の識別に使われている「いろはに…」の文字を抜いた行灯が和の雰囲気を盛り上げている(あなごのねどこ)。

Idea 06
「洞窟で浴びる」みたいなシャワールーム

角にアールをつけて塗り上げた「あなごのねどこ」のシャワールームは、洞窟をイメージしたものだそう。無造作に貼られたタイルやドアノブのフックがかわいい。

シャワー室の外壁は廃材の継ぎ合わせ。

衣服を掛けるハンガー用のフックは不要になったドアノブ。

Idea 07
光のトンネルと共用スペース

女性用ドミトリーと、男女共用ドミトリーをつなぐ通路部分は共用スペースとなっており、中心には天窓から外の光を届ける吹き抜けの四角い筒が通っている。

共用スペースから光のトンネルを覗くと下にはカフェが。

光のトンネルは、1階のカフェまで外の光を届けている。

Idea 08
がたがた、ぐにゃぐにゃを楽しむ

引き出しがバラバラの方向を向いている飾り棚。 いずれも「あくびカフェー」

お会計用の小窓はぐにゃぐにゃと切り抜かれ、
カウンター上の台は、がたがたと段差をつけ、
引き出しを利用した飾り棚もバラバラの方向を向いている。
ちょっとした遊びで全体を楽しく演出している。

がたがたしているカウンター。

三角屋根つきで、ぐにゃぐにゃと切り抜かれたお会計窓口。


 

「あくびカフェー」・ゲストハウス「あなごのねどこ」
広島県尾道市土堂2丁目4-9
お問合せ/TEL.0848-38-1005
http://anago.onomichisaisei.com/

「あくびカフェー」
営/11時~22時 休/木曜日11時~16時

ゲストハウス「あなごのねどこ」
チェックイン/16時~22時 チェックアウト/11時
ドミトリー おひとり/1泊2,500円


演出で空間を仕切るアイディア
ヴィンテージマンションで自分らしい空間づくり 箕面市S邸

高台に位置し、大阪まで一望できる明るいリビング。ベランダの向こうに木々の生い茂った公園が広がっていて、外から見られる心配がないのでカーテンやブラインドは使用していないのだそう。

玄関を開けると、リビングを通り越し、ベランダの向こうの景色まで見えてしまうほどすっきりと奥へ広がる空間。できる限り壁を取り除き、クリエイターであるSさんが自由にインテリアコーディネイトできる空間を作った。
「すぐ散らかしてしまうくせに、散らかっているとストレスが溜るんです。だから、くつろぐのが目的のリビングはできるだけすっきりと見えるように仕上げました」

らんまの格子やウッドフロアの直線が整然とした印象を作り出し、アンティークのキャビネットや椅子が温もりを演出している。一方、その横に広がる書斎スペースは対照的にカラフルなおもちゃや絵本がかざられ賑やかな印象。
「ここは仕事場なんです。仕事をする時はテンションをあげたいので、元気な色づかいを心掛けました」。
同じフロア上にあるリビング、書斎、キッチンが壁ではなく家具と演出によって仕切られている。広く明るく使いたいが、目的によって空間を仕切りたいという思いが成せるアイディアだ。

格子状のスリットが印象的ならんまと照明。らんま下部をディスプレースペースとして活用している。

家具と床材、演出によってフロア続きの空間がリビング、キッチン、書斎、和室に仕切られている。

パパッとアレンジでオリジナル家具

Idea 01
ワインケースでつくる書棚

ワインケースを積木のように組み合わせて好みの書棚に。そもそも耐荷重性があるのでなかなか丈夫なのだそう。必要な容量やスペースに合わせてフレキシブルに組むことができるのでとても便利。また、ずらして積めばニッチが生まれディスプレイスペースにもなり、書棚自体の表情も変わるので、インテリアにも一役買ってくれる。

酒屋で貰ったワインケースを組み合わせて書棚に。自分好みにモジュールを楽しんだり、本が増えれば容量もどんどん増やせる。

書棚の上は細々としたフィギュアや絵本で賑わっている。

アンティークの洗濯板をマグネットボードに。

Idea 02
市販の家具に手を加えて

ホームセンターで購入したスチール製の3段シェルフにタイルを張ったコンパネの天板を渡しただけのキッチンカウンター。市販の脚にコンパネを乗せただけのワークテーブル。いずれも安価で製作することができるうえに、好みで色を塗るもこともできる。

ご主人手作りのキッチンカウンターがリビングとキッチンを仕切っている。

ワークテーブルがキッチンと書斎を仕切っている。奥の黄色い壁が書斎の印象を一層賑やかに見せている。

Idea 03
使わなくなったもの拾ったものを上手に活用

旅先の海で拾ったという流木は部屋のアクセントになると共に、観葉植物や時計を飾るベースに。舞台装置として作られ強度のないはしごは、くつを置いて。使わなくなった火鉢は観用植物の鉢カバーに。それぞれ本来の姿ではないが、いいアクセントとなっている。

日本海で拾ったという流木は時計や植物を飾って。

舞台装置として作られ使い道のなくなった木製はしごをシューズラックに。

和の設えが洋の空間に映える火鉢の鉢カバー。

Idea 04
空間を広く使う

トイレと洗面所の間にあった壁を取り除くことで、トイレも洗面所も共に広く使える。

 

洗面所に備え付けられた鏡もSさんお気に入りのアンティーク。