巻頭特集

住まいと暮らしのストーリー

Warmth —— ぬくもりを紡ぐ家

「熱い思い/心あたたまる」「心が凍る/気持ちが冷める」また、英語でも「heart warming」「cold‐hearted」などと表現するように、日本人に限らず人は温かいということに幸せや優しさ、一途さなどのプラスを感じ、寒い・冷たいということにマイナスを感じるようです。そこで今回は、「ぬくもり≒幸せ」と定義づけて、何かしら幸せを感じたり、心地良くなれたりといった“暮らしにプラスをもたらす要素”を集めてみました。小さなぬくもりを積み上げて、つなぎ合わせると“本当に温かな家が生まれる”という思いを込めて「ぬくもりを紡ぐ家」と題しました。

手仕事 × 素材 × 長屋 が紡ぎ出す
ぬくもり

 最近よく耳にする「コーポラティブハウス」という言葉。住む人たちが組合を作り共同で土地を購入し、意見を出し合って建てる集合住宅のことだ。1970年頃から見られるようになったこのスタイルは、主に都心で自分好みの家を効率よく手に入れる方法として、仲間で建てるオーダーメイドマンションといった形で広がった。

 しかし最近、少し違った発想の「コーポラティブハウス」が注目されている。例えば、気の合う仲間が集まって、都心から少し離れた広めの土地に小振りで個性的な戸建て住宅を点々と建て、敷地内に畑を作り、みんなで農作業を楽しんでみたり、見た目には普通の集合住宅だが、中に入ると、みんなで集まってバーベキューなどを楽しむための共有の中庭が充実していたり、つまり仲間との暮らしを楽しむことを大切に作られているのだ。

 今回注目した「桃ヶ池長屋」は賃貸物件で、先ほどの「コーポラティブハウス」の例には当てはまらない。しかし似たような現象が見られる。まずこの長屋は、古い集合住宅にすぎないのだが、改築にあたっての自由度はかなり高く、各戸それぞれに個性的なアレンジがされており、そこに住まう人々もユニークだ。

 その主張ある面々が、誰から強制されることもなく集い、語らい、さらに一緒になって地域を盛り上げるための活動もしている。それぞれの思いや個性を貫きながら、地域の仲間との暮らしも楽しむ。そこが、コーポラティブハウスの例に似ていて、「桃ケ池長屋」の住人にとって、このルームメイトのようなつながりは「安心感」であったり「心地よさ」であったりするようだ。

 しかし、以前からの仲間なら分かるが、バラバラに集まったにもかかわらずそれが成立しているのはなぜか。それはおそらく、彼らがある種の似た者同士だからだろう。そう思えるポイントは、みんな手仕事が好きで、それを使って住居兼職場としてこの長屋で仕事をしているところ。おそらく「ぬくもり 幸せ」の方向性が似ているのだろう。

 そこで今回は「桃ヶ池長屋」の二人の住人、器と暮らしの雑貨のお店「カタルテ」の宮倉さんと、オーダーメイドの洋服と雑貨のアトリエ「coromo」の田中さんに話を聞いた。




器と暮らしの雑貨のお店
カタルテ
オーナーが直接、作家に会って買い付けた普段遣いの一品ものの器が並ぶお店。Web Shopもあります。

tel.06-7500-3500
大阪市阿倍野区桃ケ池町2-11-17
営業時間/12時〜17時
営業日は不定なためHPで要確認
http://katarute.com/shop

オーダーメイドの洋服と雑貨のアトリエ
coromo
普段遣いからウェディングドレスまで使う人の思いを叶える洋服や雑貨を作ってくれるお店です。

tel.06-6690-7500
大阪市阿倍野区桃ケ池町2-11-18
営業時間/12時〜18時
定休日/水・木曜日
http://atelier-coromo.com/

 





Warmth —— 1

土 × 手仕事
宮倉さんの場合


「こういう古い長屋に住んでいると、エコだとか古いものへのこだわりだとかを持っている人のように思われがちなんですが、コンロはIHですし、一流ホテルのスイートにも憧れますし、今風のものも好きなんです。

 でも、土や木の持つこの肌触りが大好きで、庭のある木造の長屋での暮らしには幸せを感じています。土も木も布も全てつながっている気がしますよね。陶器に使われる釉薬は植物から成分を抽出しますし、布だって麻や綿は植物で、その植物たちは土から生えているわけだし。だからたまに木や土を感じに山や森へ足を伸ばすんです。

 でも、街も新しいものも好き。自分に合ったバランスがあるんですよね」と宮倉さん。その絶妙なバランスを保つ暮らしを叶えてくれるのが、この長屋なのだろう。

和歌山の作家、長谷川さんの桃の釉薬を使った茶碗。宮倉さんの陶器に対する思いを熱くするきっかけとなった作家さんなのだそう。

宮倉さんお気に入りの茶碗。割れたり欠けたりするたびに金継ぎで修復することで、新しい表情を見せてくれるのだそう。

 

昭和の風合いが残る窓が主役のリビング。畳を艶やかな飴色のフローリングに敷きかえ、北欧テイストの家具でシンプルモダンな空間に。天井や壁に残る柱がアクセントとなっている。

中庭から店内に光を取り込む大きな窓。屋根を越えるまでに成長したオリーブの木が心地よさそうな木陰を作り出してる。

中庭へと続く土間と座敷を仕切っていた縦の壁と、座敷を仕切っていた横の壁を取り払うことで、風も光も通り抜ける広く開放的な空間となった店内。



Warmth —— 2

布 × 手仕事
田中さんの場合


「布に限らず、モノ作りは子どもの頃から好きです。どちらかと言うと0から生み出すというよりは、既にあるモノに少し手を加えて良くするとか、お客様の思いを基にして作るとか、あるモノを活かすのが好きです。

だから作り変えることを前提に既成品を買ったり、お客様が具体的なオーダーをお持ちでない場合は、お客様の日頃の服装から発想して作ったりします。

布の良いところは、自由度が高いので、服だけでなくいろんなモノが作れるところ。財布やサンダル、作れるものなら何でもやってみるって感じです。私にとってこの家の魅力もそういうところにあります。

既にあった古い家ありきで、それを自分に合うように手を加えながら作り上げていけるから」

と田中さん。自分という素材を活かした「暮らし作り」も楽しんでいるようだ。

おばさんからもらった大きな作業台を収納とディスプレーを兼ねた使い勝手の良い棚にリメイク。

プロの道具が所狭しと置かれた作業部屋。そもそも作業しやすいアトリエが欲しくてここへ越して来た田中さんにとって、念願の空間でもある。

寝室と作業部屋を結ぶ渡り廊下。左側のトイレにも窓があり、外からの光が入る。

店の間口全てがガラス張りの引き戸になっており、常に外の様子がうかがえる。孤独な作業の多い田中さんにとっては、人の気配が感じられてホッとするのだそう。


中庭を囲む屋根に切り取られた空には、何も邪魔するものがなくどこかの里山の空を見上げているような気分になれる。田中さんのお気に入りスポットだそう。







Warmth —— 3

長屋というぬくもりを紡ぐコミュニティ

京町家という言葉は、今や広く馴染みがあり、若い人であればそこから、おしゃれなカフェや雑貨店などをイメージすることだろう。実際、京町家を保存するために奔走する組織は各エリアにあり、店舗としても住居としても活用されている例が多い。それに比べ、大阪の長屋はどうだろう。その存在すら認識していない人も少なくないのでは…。

実は大阪には、戦前に建てられた長屋が比較的良い状態で多く残っている。京町家ほどの歴史はないにせよ、それらの中には文化財としての価値があるものもあり、また何より、庶民的であたたかなコミュニティを生み出す不思議な力を持っている。ところが大阪にはそれを保全しようとする組織がほとんどなく、昨今では、家主の高齢化に伴い主を失った長屋が取り壊しの対象となっていることも少なくないのだそう。

そんな中、長屋を建築物としてまた、文化として生きた状態で残そうと徐々に活動の幅を広げているのが、藤田先生をはじめとする「大阪市立大学」のチームだ。今回は、「なぜ長屋を守ろうとしているのか」というお話を聞く中で、『長屋の持つ不思議な力』について探ってみた。

「オープンナガヤ大阪」の原点でもある北区豊崎にある長屋。今も残る土の路地が印象的。

幼稚園を運営しているご家族が玄関の土間に開いた子ども向けの小さな図書館「たんぽっぽとしょかん」。2階では着付け教室も開いており、一般のご家庭でありながら地域に開かれた場所となっている。(住之江区)


「NPOさをり広場」が主催している“さをり織り”の体験工房「SAORI 豊崎長屋』。のんびりと“さをり織り”を体験することができる。(北区)




長屋前の路地こそ ぬくもりの原点
大阪市立大学大学院 生活科学研究科 教授
藤田 忍 先生のお話

「私が長屋に出会ったのは2006年。大家さんから『何とかこの長屋を残したいんだけど…』と相談を受けた仲間の先生と一緒に、豊崎にある長屋の路地に足を踏み入れたんですが、一瞬で『これは残さなあかんな』と感じました。梅田からほんの15分くらいのところに、土があって緑があって、そこに90年以上も前の長屋が残っている。これはもう、都会の奇跡だと。そしてこの活動がはじまりました。

私の専門は『まちづくり』ですから、改修は建築の先生に任せ、歴史の先生は文化財として保全できないかと奔走し、私は周辺の調査や多くの人に知ってもらうためのイベントを担当しました。最初は小規模に豊崎の長屋だけでアートイベントを開催していましたが、2011年に、世界的に有名な『オープンハウスロンドン(※1)』というイベントに参加し、それを参考にしてスタイルを見直し、まずは自分たちの身の丈に合わせて数件の長屋をオープンすることから始めました。

(※1:ロンドン市内にある文化的価値のある建造物を一般に無料で公開するイベント。有名な企業のビルや歴史的建造物もあれば、一般の小さな住宅もある。)

最初は、オープン(家を公開)してくださる長屋のみなさんには、とくに指示を出すことなく、自分たちのスタイルでオープンしてくださいとお願いしていたのですが、規模が大きくなったこともあって、みんなで集まるようになったんです。そこで私はまた感動しました。長屋を再生して住んでいる人達の多くが、確固とした哲学を持っていて、人を幸せにするための活動をしていたんです。

私は彼らのことを『長屋人(ながやびと)』と呼んでいるんですが。例えば、玄関を入った土間で地域の子ども達のために小さな図書館を開いていたり、障害のある方を先生に迎えて『さをり織り(※2)』の教室を開いたり。そこには素敵なコミュニティが生まれていました。長屋の何がそうさせるのかは、はっきりとは分かりませんが、確かに今回の記事のテーマでもあるように長屋はぬくもりを紡いでいます。

(※2:決まりのない織物。それぞれの人に内在する感性を自由に表現するための織物で、自発的な自己の解放と成長を目的としている。)


空間的に言うと、自分の家に居ながら隣の声や、外で立ち話をする人達の気配を感じることができますから、ご近所がより身近に感じられる集合住宅ではあります。それと、もう一つ注目すべきは玄関先に丹誠込めてつくられた緑。

例えば次の写真。この家の住人は自分の家だけでなく、家の前の路地も大切にしているのがよく分かります」。

長屋前に広がる美しい緑。道路が舗装されても、この長屋の住人たちにとって路地は共有の庭のような存在。

先生の説明はここまでだったが、言わんとしていることはこうではないだろうか。

長屋前の路地は、立ち話をしたり夕涼みをしたり、長屋に住まう人たちの共有スペースであり、コミュニティの場となっている。そこが充実しているということは、この長屋とその周辺のコミュニティが充実している可能性が高い。井戸端会議という言葉の通り、時代劇でよく見かける、長屋共有の井戸を囲んで主婦たちが話に花を咲かせている様子。その延長線上にある、庭先や路地で生まれるコミュニティにこそ、長屋人が紡ぎ出すぬくもりの原点があるのではないだろうか。

長屋という存在は、年齢を越えたつながりを実現する力を持っている。

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大阪市立大学大学院 生活科学研究科 教授
(学術博士/一級建築士)
藤田 忍 先生

※肩書きなどは2014年取材時のものなので、最新の情報は変わっている可能性があります。




予約不要!フラッと出向いてのぞいてみよう!

オープンナガヤ大阪2020
2020.11/14(土)・ 11/15(日)


オープンナガヤ大阪とは、「暮らしびらき」をテーマに、大阪にある複数の長屋を同時多発的に公開し、現代社会に順応しつつ暮らし続けている方々のナガヤライフを見て、感じて、知ってもらおうというイベント。長屋所有者や建築・不動産関係者だけでなく、入居希望者や一般の方々に対して現代の大阪長屋の活用事例と長屋暮らしの魅力を広く伝え、大阪長屋への理解と愛着を深めてもらうことを目的としています。


【参加方法】まずは、ホームページにアクセス!
https://opennagaya.wixsite.com/website

【お問い合せ】
主催:オープンナガヤ大阪2020実行委員会
お問い合わせ:opennagaya@gmail.com
tel.090-8168-2274
fax.06-6605-2875

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