巻頭特集

カラダがよろこぶ家

人として健やかな、そもそもの暮らしを見直す

 『田舎暮らし』と言うと、リタイアした人達の第二の人生というイメージがある。しかし、今は20〜40代の、特に東京や大阪などの都会の若者達が昔ながらの暮らしを求め、里山に移り住む例が増えている。ある人が教えてくれた。「行き過ぎた環境にストレスを感じて、田舎を求めるのだ」と。

畳敷きだった和室を二間つないで、無垢のメープルでフローリングに貼り直したリビング。廊下を仕切っていた壁を取り払い外光が入るようにしたことで、風も光も通り抜ける明るい空間となった。ソファやテーブルなど、ご主人が作られた荒西一家サイズの家具達はどれも、シンプルで飽きのこないあたたかなものばかり。


 例えば、動かず考えず、ただしたいことを声にすれば自動的に叶えてくれる機械に対し「人間は本当に体や頭を使わなくなって大丈夫だろうか」。お金に異常な価値を感じる人達を見て「本当に大切なものは何なのか」。震災以来、「電気はどこまで必要なのか」などの行き過ぎに対する疑問。その行き過ぎはやがて、人間関係をも窮屈なものにし、ストレスや危機感へと発展する。

 そこで彼らは、お金に頼らず知恵と技術で生き抜いてきた『昔の日本人の暮らし』に戻りたいと、田舎へ移り住むのだ。そこには、設定された休日や就業時間はない。一日中、自分たちの暮らしのために家族が一緒になって働き、農閑期や暇な時期には地域の人達を助けたり、一緒になって祭りを楽しんだり、食べ物がない時期を考え保存食の準備したり…もちろんそこには、不自由なこともあるだろう。それを、知恵や技術で乗り越える。そんな暮らしこそが、考える動物『人間』にとって健やかな暮らしなのかもしれない。
 今回は、そんな暮らしを現代風に格好よく実践している人たちを取材した。




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家族と仕事がともにある 便利すぎない普通の生活
〈兵庫県篠山市 荒西邸 4人家族〉

 大阪から電車で約1時間、ちょうどいい田舎、篠山市。家具職人の荒西さんがこの町に越してきたのは約3年前のこと。なぜ、人気デザイン会社の経営者という誰もが憧れるような大阪での暮らしに終止符をうち、田舎を選んだのか。そこには、『カラダがよろこぶ家』づくりのヒントがたくさん詰まっていた。

木工と暮らしの店「6(rock)」オーナーで、「graf」の創設メンバーでもある荒西さん。彼が都会を卒業し、篠山へ移住しようと思ったのは、子どもが増え、ますます家族との暮らしを大切にしたいと思ったのがきっかけだそう。

 荒西さんが人生の新たなステージに篠山を選んで移り住んだのは3年前のこと。傷みの激しい古い民宿を自分でリノベーションし、ショップとアトリエ兼自宅へと生まれ変わらせた。なぜ、都会で人も羨むような成功を納めた人が、あえて不便がついてまわる田舎の古民家を選んだのだろうか。

 「もちろん、不便なことも大変なこともたくさんあります。でも、だからこそアイデアが浮かんできて、あるものを生かしながら、自分たちのスタイルに作り替える、それが楽しいんです。

 『楽』と『楽しい』じゃ大違いですよ。マンションなんかで、ここに冷蔵庫を置いてくださいと言わんばかりのスペースがあったりしますよね。コンセントもちゃんとあって、いい具合に冷蔵庫が納まりますから、楽かもしれません。でも、僕は自分たちの暮らしまで型にはめられるようで、楽しくないですね。そういう行き過ぎた便利が都会にはたくさんある。だから、ここに移り住んだんです。

身長175㎝の奥様に合わせてご主人が作った高さ93.5㎝のキッチンカウンター。奥様は既成のものだと腰に負担がかかってつらかったのだそう。また、梁の高さまでしかなかった天井を抜いて高さを出し、明るく広がりを感じるキッチンに。


 それともう一つ、僕にとって『家族』と『遊び』が基本にあって、仕事もそばにあるというのが普通なんです。仕事中でも、子どもの泣き声が聞こえたら相手をしたり、店に子どもが入ってきてお客様と話をしていたり、天気が良ければ昼間から大好きなバイクを走らせたり。そんな暮らしが私たちのスタイルなんだと思います。

 でも、これって特別なことじゃないんですよね。不便を知恵や技術で乗り切り、家族と仕事が共にあるというのは、少し昔の日本ならスタンダードなことだったでしょう。それが、現代の都会では実践しにくくなりました。ちょっと騒ぐと『うるさい』と怒鳴り込まれたり、人が敏感になり過ぎていて、ストレスなしには暮らせない。

 『カラダがよろこぶ家』は、自分たちのスタイルやサイズに合った家だと思います。それを実現するには、自分で考え自分の手で作るのが一番です」。

新鮮でおいしい食材が揃う篠山に越してきてから、食に敏感になり、安全性も含め丁寧に向き合うようになったと奥様。

古いものを生かしながら
自分たちのスタイルに変化させる

 以前は民宿だったというこちらの古民家には、その形跡が随所に残されており、うまく活用されている。

 例えば、お風呂場も浴槽も大きく、家族4人が一緒に入れるサイズだったのでそのまま有効利用し、ほぼ毎日みんなで仲良く入っているのだそう。庭も広くちょっとした日本庭園になっており、子ども達にとっては恰好の遊び場として健在だ。また、あちこちにある段差は、壁で仕切らずに空間を区切るのに役立っていたり、店内においてはステージの様な印象のスペースになっていたり、蔵はそのユニークな空間を利用してギャラリーとして使っていた。

POINT 民宿時代の特徴を生かす

民宿時代の名残で3器ある洗面もそのまま生かして使っている。家族が並んで手を洗う様子が微笑ましい。

民宿時代のままの広い風呂場と大きな浴槽。家族4人で入ることが多いのだそう。みんなで入 ると楽しいことに加え、お湯の嵩が増し、追い炊きもいらないので経済的でもある


 『ゴミを出さないこと』をコンセプトにリノベーションされただけあって、役割や形を変えながら古いものが生かされている。生かし方も荒西スタイルなら、ゴミにせず生かすという考え方も荒西スタイルなのだ。

 「木はいろんな用途で使うことのできる素材です。器やスプーンにもなるし、木っ端はワークショップや子どもの積み木にも使っています。だから、よほどでない限り古材であってもゴミになんてならない。木屑だって、袋に集めて近くのペレットストーブのリサイクル工場に持っていっています。木はさまざまな形に変化し、人の暮らしに寄り添ってくれるものです」。

アトリエから出た端材で遊ぶ子どもたち。既製のおもちゃより、不均一な端材で遊ぶ方が好きなのだそう。できあがりや、目的が決められた遊びより、自分の創造力で目的が無限に広がることが子どもを夢中にさせるのだろうか。


POINT 古民家の風合いを生かす

土塀や木の梁や柱、建具などはできるだけそのまま使い、時代を刻んだ温もりある風合いを楽しんでいる。民宿の表玄関だったところは堂々とした風格を残したまま家の玄関兼ショップの出入り口に。お客様も子ども達もみんなここから出入りする。

厚い漆喰の壁が特徴的な蔵は、ほぼそのまま再利用され、時折ギャラリーとして解放される。

2012~13年ギャラリー“kura”で開催されたアトリエすずかけによる「ピーチクパーチク」展の様子。

アトリエ前には趣味のバイクが。こちらも自力で修理中。

以前は倉庫として利用されていた場所をアトリエとして改装。キッチンの勝手口とつながっているので、家族にはすぐに声がかけられる。子ども達も父親が働く姿を時々見に来るのだそう。


POINT 段差を生かす

段差があることで、リビングから区切られた印象のこちらのスペースには、大きめの薪ストーブがあり、冬場などはピザを焼いたりするのだそう。また時々、娘さんがカフェ気分でジュースなどをサーブしてくれる場でもある。

ショップ内にも段差があり、置かれている商品カテゴリー別にさりげなく区切られているようにも見える。また、空間が立体的に使えるので、レイアウトにも動きが感じられる。




information

木工と暮らしの店「6(rock)」
兵庫県篠山市風深 214-1
TEL/FAX.079-506-2410
http://www.6-rock.com/
営業日時/金・土・日・月 12時~17時
※営業日に休むことがあります。詳しくはH.P.で。

「6」とは…
特注家具の製作・販売や修理、リフォームやコーディネイトなど、木工に関するさまざまな商品、生活を提案するショップ&アトリエ。また、セレクトで集められた食器や衣類など、日々の暮らしになじむ道具や用品も販売している。




case2
人も家も地産地消こそが健やかの源
〈丹波篠山の宿 「集落丸山」〉

篠山市街地から車で10分ほどのところにある丸山地区は、三角屋根が独特な丹波篠山古来の民家12軒からなる小さな村。150年以上の歴史をもつ家屋もあり、今もなお現役で人々の営みを支えている。その中に数棟の集落から成る「集落丸山」という宿がある。そこには家が長寿でいられる理由があった。

 篠山の市街地を抜け、延々と続く田園風景の中を10分ほど北へ走ると、昔話にでも出てきそうなかわいい丸山の村が見えてくる。民家は12軒あるが、住んでいるのはわずか6世帯。2009年、限界集落と言われながらも、村の美しい自然と豊かな暮らしを守りたいと、地元住民が力を合わせ、空き家になった古民家を昔ながらの方法で再生し、宿「集落丸山」として運営しはじめた。

丹波篠山の宿「集落丸山」の一室。築150年以上と言われている「佐古田邸」を昔ながらの方法で改修し、宿として再利用したのだそう。広い土間と大きな梁が印象的な台所と居間。

 「この村には取り立てて特別なものはありません。ですから、来られたお客様には村民になった気分で、村のゆったりとした暮らしを楽しんでいただく。それが一番のおもてなしだと思っています」と、話してくれたのは、女将の佐古田さん。

「丸山の古民家もそうですが、昔ながらの家は自分たちで手入れしながら、200年、300年と代々住み続けることができるものなんだそうです。傷んできたら、そこにある土や木で継ぎ足したり塗り直したり…だから古民家は長寿なんですよ。そこで採れた材料で作れば、風土に合わないはずないですから。

 人も同じです。その土地で採れた旬のものを食べるのが一番体に良いですものね。自然は、人にも家にもちゃんと元気になれるものを与えてくれるんです。この村にはそんな自然と寄り添う暮らしが残っています。お客様にはそれを感じて帰っていただきたいですね」。

玄関を入ると台所へと続く通り土間。手前が客間、その奥が「寄り付きの間」と呼ばれ、一般の人が出入りする玄関となっていた。いずれにも上がり框(かまち)があり、人々が座ってにぎやかに話す日常が目に浮かぶ。

女将の佐古田さんもこの村の住民。タイムスリップしたかのような気分になれるのがこの村の魅力だそう。


POINT 日本の古民家を支える梁と柱

日本家屋は梁と柱が基本となっている。これらがしっかり残ってさえいれば、手入れをしながら何百年も住み続けることができる。ただし、家は人が住まなければあっと言う間に朽ちてしまうので、使い続けることが大切なのだそう。

大きな梁の両サイドにあるのが大黒柱(写真上)。手前の居間には以前は囲炉裏があったようで、天井に組まれた竹(写真右)はすすで真っ黒になっている。この竹は、磨くと黒光りし美しいことから、逸品として再利用されるのだそう。

丹波篠山の宿「集落丸山」の一棟。斉藤邸を改修したもの。 屋根の三角部分(妻)側に玄関があることが摂丹型古民家の特 徴で、妻入りとよばれている。


薪を使うさまざまな道具が健在。薪による熱は輻射熱となって土壁に蓄えられ、温もりがじんわりと持続する

薪ストーブ

かまど

五右衛門風呂

間伐材を使用した薪


POINT 環境をそのまま住空間にする

 地元の山から切り出した松で骨組みをつくり、杉を防腐・防虫効果のある柿渋で塗装して床に貼り、地元で刈った茅で屋根を葺き、地元の土で壁をつくる。土地の自然が生み出したものだけでできている古民家は、環境そのものを住空間にしたと言っても過言ではなく、風土に馴染まないはずがない。その結果、丈夫で長持ちするのだそう。

篠山の土でできた壁

杉に柿渋を塗った床

茅で葺いた屋根

床を張り直した寝室。杉の天然木を柿渋で塗装したものを使用しているのだそう。

南側全面に縁側があり、広い開口から光と風が奥の台所へと通り抜ける。ここからも自然を取り込んでいる。




information

丹波篠山の宿「集落丸山」
兵庫県篠山市丸山30番地 
TEL.079-552-5770
http://www.maruyama-v.jp

1棟1泊、朝食・夕食付き(おひとり様)
23,000円※5名様1室利用の場合 ~

※GW・お盆・年末年始は特別料金
※夕食は旬の食材を使ったフルコースを
 地元のレストランで。朝食は村人が提供
 する野菜たっぷりの和朝食をお部屋で
※希望で、農業体験や藁縄編み体験等可

通常のバス・トイレも完備