つちかわれる、モノ・暮らし

「Uen AI SOFA(ウエン アイ ソファ)」

ミリ単位で良否を見極める昭和のソファ職人たち

日々の暮らしを共にする道具や器、家具。モノにあふれている時代だからこそ、暮らしに寄り添う丁寧につくられたモノをえらびたい。今回は、熟練の職人だけができる単バネの技法を用いて、ソファづくりに情熱を傾けてきた東大阪の奈技工房へ。
古き良き技術を受け継ぎながら、常に新しいモノづくりに挑戦する職人たちの手仕事を取材した。

 日本でソファが普及しはじめたのは戦後まもなくのこと。昭和20〜30年頃は、無垢の木材で作ったフレームに、「単バネ」と呼ばれる鉄のバネを並べ、その上にワラやひご、馬毛などをクッション材にして布地を張っていた。ほどなくしてクッションの役割はウレタンにとって代わられたが、馬毛はとくに耐久性が高くへたりの少ない素材で、100年前の古いソファでも、張り替え時に天日干しをすれば再び膨らんで使えるようになるという。
 その頃のソファ職人には、大工と同じような徒弟制度があった。職人を志す丁稚は、親方のもとに住み込みで働き、3年間の修行を経て職人になる。
 職人になれば、お客さんのソファの製作や張り替えができるようになるのだが、一脚の張り替えだけでも当時の月給の2〜3倍のお金を稼いだというから、その技術がいかに高く評価されていたかが分かる。
 検査の目も甘くはなかった。戦後は日本に駐在していたアメリカ人からのソファ製作依頼が多かったが、できあがった製品はノギスで厚さをミリ単位まで計測され、左右に少しでも狂いがあれば即作り直しになってしまう。しかし、その経験を積むうちに職人の腕も磨かれていった。

木工場の壁一面にパーツごとの木型がかけられている。奈技工房が長年の技術で培ってきた財産だ。

自社ブランド「uen」の「AI SOFA」のフレーム。本来は木出しチェアに用いられる、強度の高い無垢のブナ材を使用。

すき間なくピシッと収まった継ぎ目。なめらかな曲線も職人の手加減から生み出される。

強度を出すべきところは木材に凹凸を組み入れ、ガッチリと噛み合わせて耐久性を高める。

昔ながらの手仕事には、昔ながらの道具が欠かせない。

治具(じぐ)に押し当てて位置決めをし、木材を一定に加工する。一つのソファで20~30の治具を使うという。

凹凸で組み上げた木材を、木ネジとノリとタッカーでしっかり固定する。

奈技工房の代表取締役である小谷幸宏さん(左)と、常務取締役の小谷清二(右)さん。二人とも現役の職人である。

使う場所、使う人を想う自社ブランド「uen」

 現在、ソファは「Sバネ」や「ウェービングテープ」など平面で支えるクッション構造が主流だが、奈技工房では昔ながらの「単バネ」もいまだに使われている。平面的なバネとは異なり、この鉄製のスプリングは、バネ紐を用いて同一のテンションで吊る高度な職人技が必要となる。それでも単バネにこだわるのは、座る人の体型に合わせて個々に動いて立体的に体を支え、座り心地のよい弾力を生み出してくれるからだ。
 クッションには、十数種類のウレタンフォームを何層にも重ね合わせ、反発性や弾力を絶妙にコントロールする。重ねる順番や厚みを変えるだけで座り心地は大きく変わるため、その組み合わせは無数だ。
 こうした技術力を背景に、奈技工房は徐々に販売店への卸しから消費者への直接販売に業態を変えていった。「それまでは売りやすいソファを作り、販売店はそこから売れそうなものをピックアップしていたわけです。しかし、それは本当にお客さんが求めているものとは言えない」と幸宏さん。いかに使う人に寄り添ったモノづくりができるか。その挑戦を続けるなかで重視したのが、空間を軸とした家具作りだ。家に家具を付け足すのではなく、家に合わせて家具をつくる。家になじむ家具は、古さや新しさ、和風や洋風といった時代やスタイルを融合させ、人に心地よい生活空間を生み出すだろう。この家具作りへの想いを抱え、先代から付き合いのあった多くのソファのデザインを手掛ける伊藤浩平氏(NORTH LAND DESIGNS代表)とのコラボレーションによる自社ブランド「uen」を2016年に立ち上げた。

単バネにバネ紐を張り巡らせて固定する。バネを強く押さえつけながら結ぶことで座り心地が安定する。

同じ型紙で裁断しても、生地によって張地の仕上がりが変わる。納得いく仕上がりになるまで、何度でも型紙から作り直す。

伸縮性や伸びる方向などを考えながら、ソファの丸みに沿うように布や革を立体裁断する。

縫糸やステッチによって9種類のミシンを使い分ける。国内ではほとんど見かけない珍しいミシンも。

生地の柄や癖を考えながら、ソファのフォルムに沿って丁寧に張り上げる。

一つひとつ手作業でボタンを締めていく。高い技術が求められるボタン締めは、熟練した職人による技術の集大成と言える。

和の空間と融合し、日本の暮らしに寄り添う

 「uen」のコンセプトは「日常づかいできるアート」。職人の伝統技術から生み出される造形美は、もはや芸術。「和モダン」をテーマにデザインされた凛とした佇まいが、日本家屋になじむ。そして、日本人の体型に合わせたフォルムで暮らしによりそい、長年にわたって使いつづけるうちに愛着が深まっていく。
 なかでも「AI SOFA」は、奈技工房の技術が結集した集大成といえる。手間を重ねて色を出す「藍染め」に由来するこのソファは、座面に単バネを、背面にSバネを施し、イギリスのファブリックブランド「DESIGNERSGUILD(デザイナーズギルド)」の布地を張り、チェスターフィールドのようなボタン絞りで手間ひまかけて仕上げられている。
 一脚で存在感を放ちながらも、リビングのなかでは空間にとけこむその姿に魅せられて、工房には全国から客が訪れる。そして、仕上がりには皆、満足するという。「お金をいただきながら、ありがとうと言われるなんて、贅沢な商売です」と笑う幸宏さん。ソファがある場所には、くつろぎの時間が生まれる。優れた職人技がお金に代えがたい価値をもたらしている。

何層にも重ねたウレタンに生地を張り上げ、美しい曲線を描く。

生地に折りを入れながらダイヤ柄を浮き上がらせるボタン絞りは、熟練の職人技。

日本人の体型と生活スタイルに合わせてローバックに。心地よい弾力で体を包む。

日本家屋にもなじむ、静かな佇まいが存在を放つ。

脚は、深みのあるウォルナットの無垢材に。いぶした風合いのアイアンがなじむ。

商品紹介
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[サイズ(mm)]W2180 × D920 × H620(SH350)
[フレーム主材 ] ブナ材(無垢板)
[   脚   ] ウォルナット材(無垢板)、アイアンキャップ
[ 座面構造 ] 本体 単バネ(鼓バネ)・ウレタン 樹脂綿
[ 背面構造 ] Sバネ・ウレタン 樹脂綿 ※フレームの構造上一部、合板(F☆☆☆☆)を使用。
[ 価  格  帯 ] 504,000円~756,000円(税別) ※写真のソファは600,000円(税別)

取材協力 / 奈技工房
TEL.072-980-4666
大阪府東大阪市新池島町2-21-4
URL/https://www.nagikoubou.com