巻頭特集

STYLEのある暮らし

STYLE
のある暮らし

The interior
is
the interio

湖心亭さんの自邸。北欧、フランス、イタリア、韓国、中国、日本など、さまざまな国からやってきた家具や道具の風合いが融合し、独自のスタイルを生み出している。

 日本語でインテリアと言うと、『室内装飾』という意味でしかないが、英語のinteriorには、『内面』という意味もある。
 だからという訳ではないが、インテリアを眺めていると、その人の内面を感じることがある。物選び、レイアウト、使い方、片づき方などの端々に、好みや習性が滲み出るからだ。そして、それを『スタイル』というのだろう。

 しかし、逆もあるように思う。

 ある俳優が言っていた。「泣く芝居をしなければならない時は、まず嗚咽してみる。すると、不思議と涙腺が緩みだし、悲しくなり、涙が溢れてくる」。つまり、悲しいから涙が出るのではなく、泣いているふりをしているうちに、本当に悲しくなる。外的な刺激が内面を生み出すというのだ。

 スタイルもそういう側面を持っているのではないだろうか。

 ひたすら内から溢れ出るのではなく、外を整えてみると内面がそれに寄り添うように育まれ、表現してみると、また、外からの刺激で修正される。この新陳代謝を繰り返す中で自分のスタイルに到達することの方が多いのではないだろうか。

 今回のテーマは「スタイルのある暮らし」。どんな内面が、どんなインテリアや行動に繋がり、どんなインテリアや行動が、その人の内面を育んでいるのか、探ってみることにした。

STYLE
湖心亭さんのスタイル
洗練の先の慎ましやかさ

リビングダイニングは、用途に合わせ『ソファーゾーン』『フランスのアンティークデスクゾーン』『李朝バンダジゾーン』の3つのエリアに分かれている。

心地よくくつろぐための『ソファーゾーン』

仕事に向き合う『フランスアンティークデスクゾーン』

お茶や読書などを楽しむ『李朝バンダジゾーン』

凛とした空気

 扉を開けると、『湖心亭』と書かれた古めかしい木製の看板が迎えてくれた。ここは、ホテルやゲストハウスなどのスタイリングを手がける『湖心亭』さんのご自宅。通されたリビングダイニングには、どこの国というのでもない異国情緒が漂っており、決してシンプルではないが、すっきりとしていて凛とした空気を感じる。何がそうさせるのか、湖心亭さんに話を伺った。
 「地方で骨董品店を営んでいた叔母がいたのですが、インテリアにしても生き方にしても、私は彼女に大きく影響を受けています。自立した女性で、商いの合間に時間をつくっては、海外に長逗留し、眼にかなったものを選び収集していました。朝鮮半島や中国のものもあれば、フランスやイタリア、時には東南アジアの少数民族の村に分入って物々交換してきたり。私は、そんな果敢な彼女が大好きで、その生き方に憧れ、いつしか人生の師匠として見るようになっていました。岐路に立たされる度に彼女を訪ね、答え合わせをするかのように話を聞いて。
 この部屋を見ても分かるように、私はインテリアへのこだわりに国は問いません。また、古いものは好きですが、新しいものも取り入れています。このように、物選びに垣根がないのも、叔母の影響かもしれません。
 もちろん、何でもいい訳ではなく。うまく言えませんが、色や形が慎ましいもの、温もりがあって、謙虚な佇まいのものに惹かれます。そういうものは、国籍もブランドも主張しませんから、お互いに調和します。家具でも絵でも、主張の強いものは、素敵だとは思いますが、常に空間にあると疲れてしまって落ち着けないし、我が家には馴染まない気がして」。
 ベルギーのカーペットに、イタリアのソファ、李朝の膳に、日本の階段箪笥。確かにどれも強い主張はないが、見るほどに味わい深く飽きのこない個性を感じさせる。慎ましいデザインとは、単にシンプルということではなく、洗練されて初めて到達できる媚びないデザインであり、その存在感が凛とした空気を生み出すのだろう。

失敗しながら 物選びの目を養う

 美意識の強かった叔母の影響を受け、大学では美術史を学び、卒業後はフラワーデザインの世界に身を置いて目を肥やしてきた湖心亭さんだが、いつも答えを持っている訳ではない。失敗もすれば迷うこともある。
 「 20 代、 30 代は、とにかく慌ただしかったです。仕事が忙しいこともありましたが、興味の幅も広く、情報収集に明け暮れていました。物との付き合い方も同じ、目移りする中で失敗を繰り返し、徐々に自分にとって長く使えるもの、相性の良いものが分かるようになっていった気がします。
 落ち着いて判断できるようになったのは、 40 代になってから。それでもまだ、時々、失敗します。店頭ではこれだと思って買っても、実際にここに置いてみると、見劣りしたり、空気を壊したり、部屋が受け入れてくれないんです。そういう時は、人に譲るなどして、潔く手放します。
 入居当時は、ソファとカーペットしかなかったので定かでなかったこの部屋の個性が、ひとつひとつ家具を揃えていく中で、日に日に濃くなってきていて、おかげでますます、物を選ぶ際に吟味が必要になっています」。
 湖心亭さんのもの選びのポイントは①デザインが気にいること②自分なりに用途があること③配置スペースとサイズが合っていること④骨董の場合は、リペアが万全で、使用に当たってストレスのないことだそう。
 骨董は一期一会。強く惹かれたなら素早く決断しなければならないし、手元に来なかったものは縁がなかったのだと諦める力も必要だ。いずれにしても間違いなく、もの選びの目は養われる。

北欧の椅子は細い手脚が繊細な印象。また、イタリア製のテーブルの脚には、ささやかながら華やかな細工が施されている。

シンプルだが、重厚感があり、引き手や天板の切り替え部分に細やかな細工が見られるフランス製の書棚。

素朴な民画(庶民に親しまれた李朝時代の画)に、装飾の少ないバンダジ(布団などを収納した朝鮮の民具)と、昭和初期の文机。まさに慎ましさを体現している。

時代を経た物がもつ 説得力

 世間が評価する美術的価値とは別に、時代を経た物には独特の説得力がある。
 「これは、ヤンバン(高麗、李朝時代の貴族階級)に食事を出す時に使われた膳ですが、頭に被って運んだらしいんです。手を添えた時の指の跡が残っているでしょう?それに、継ぎ目がないことから、一本木からくり抜かれていることが分かります。人間味があっていいなぁと思います。
 これは、ハンガリーの農村で使われていた作業台ですが、刃物の跡がいっぱい残っているでしょう?おそらく、まな板のような役目をしていた厚い板を再利用したものだと思います。この脚のラフな作りからして、持ち主の農夫が農作業の合間に作ったものかと想像されます。
 私は、叔母からこんな話を聞くのが大好きでした。骨董には積み重ねてきた時間という謎の物語があります。そこに思いを馳せるのはとても楽しい」。
 出どころが解明されている美術的価値の高い骨董は別として、そうでないものは、売主から語られるわずかなヒントから自由に想像することができる。時代を経たものがもつ説得力とは、人の想像力を掻き立てる歴史物語にあり、それが感じられた時、空間に有機的な魅力が生まれるのではないだろうか。

ハンガリーの農村で使われていた作業台。天板が傷だらけでかなり使い込まれており、農作業に寄り添ってきたタフさと温かみが感じられる。湖心亭さん宅では、サイドテーブルとして使用されている。

継ぎ目が見られないことから、一本の木をくり抜いて 作られたと思われる李朝の膳。天板に料理をのせ、帽子のように被って運んだも ので、顔が出せるよう脚部に窓がついている。別名 『番床』。

朝鮮・高麗時代の酒器で祭 事に使用されたもの。また、敷かれている古布は、エジプトのコプト 裂。湖心亭の収集品で一番古いものだそう。

イタリアで買い 求められたつがい鳥の塑像。おそらく、建物の装飾に使用されてい たものと推察される。

李朝時代の白磁小壺。緑釉の簡素な絵付けが好みだそう。

ひとつひとつに 丁寧に向き合う時間

 この部屋に入ってから、ずっと不思議に感じていたこと。それは、複数の人で囲むテーブルがないことだ。ソファー前に置かれるローテーブルもなければ、ダイニングテーブルもない。一体、どこでご飯を食べるのだろう。
 「ご飯を食べる時はこの李朝膳を出します。大きいのが夫のもので、小さいのが私。晩酌の時も、カーペット上に李朝膳をひとつ置いて、一緒に座して楽しみます。なぜそうするのか…。言えることは、一つひとつの世界を創り込むのが好きだということでしょうか。部屋全体の世界はそうそう変えられませんが、膳の上くらいなら、道具や器の力を借りて、その時々の気分に合わせた設えができます。同時に、そのひと時を大切にすることもできる。
 食事以外でも、一人でお茶を楽しむ時間も大切にしています。どの茶碗で飲むか、どのお茶を飲むか、どの急須で淹れるか、お茶請け用の豆皿はどれにするか、どのお盆に載せるか。すべて、その時の気分に合わせて盆という小さな空間の中で、組み合わせの妙を愉しみつつ、ゆっくりとお茶を堪能します。一息つくこの時間は、瞑想にも似ていて、あくせくしがちな日常の中で、静かに心を落ち着かせてくれます。こうしてバランスを取ることで一つひとつの物事に丁寧に向き合えたらと思っています。
 先ほども、取材のみなさんがお見えになる前、のんびりとお茶を飲んでいました。普段あまり経験することのないインタビューという事柄に、ゆとりを持って向き合いたかったからだと思います」。
 こだわりというのは、時に人を頑固にし、周りを見えなくしてしまう。しかし、湖心亭さんのストイックさは、視野を広くし、丁寧に向き合うためのもののようだ。その姿勢こそ凛としており、慎ましやかさの出どころだと思われる。

膳を出して食に向かう

李朝膳は軽く、盆として持ち運びにも使われるそう。膳を出すところから始まる食事は、日常でありながら流されることのない存在感を生み出す。

盆の上に世界を作って 茶を楽しむ

食器棚に並んだたくさんの茶器は、全て現役。お茶を飲むたびに選ばれる出番を待っている。


PROFILE
湖心亭 http://koshin-tei.com
アンティークコレクター兼インテリアデコレーター。主に、ホテルやゲストハウスなどのスタイリングを手掛けている。収集したアンティークを用い、落ち着きとあたたかみのある空間づくりを心がけている。また、インスタグラム@koshin_teiにてアンティークとの暮らしを綴る。

STYLE
暮らしのてしごと屋 小薗さんのスタイル
愛着と家族愛が織りなす空間


小薗さん一家(右端:恵さん)

PROFILE
小薗恵さん
宮崎県小林市在住。夫と2人の娘、4匹の猫と共に暮らしている。オーガニック石鹸やハーブを使ったバームづくりの ワークショップ並びに販売を手がける『暮らしのてしごと 屋』店主。また、不定期で、オーガニックの食材を使ったラ ンチのお店『すーぷとさらだのお店。』も開店している。現 在は、家業の手伝いが忙しいためワークショップやランチ のお店は休業中。
https://kurashinoteshigotoya.crayonsite.net

温かさを象徴する 薪ストーブの空間

 ストーブの中でパチパチと薪が燃える音。レンガやコルク、焼杉のパッチワークのような壁。真っ赤なりんごに、黒い子猫。まるで童話の世界に迷い込んだような空間だ。バックに流れるフランクシナトラの歌声や、子どもが猫とじゃれ合う笑い声のせいだろうか、そこにいるだけで不思議と幸せな気分になれる。
 ここは、宮崎県にある『暮らしのてしごと屋』店主、小薗さんの自宅。遠くには霧島の山々が連なり、周囲には田畑が広がるのどかな場所に建っている。先ほどから感じている幸せな気分がどこからくるのか、空間づくりについて小薗さんに伺った。
 「ここは、主人の実家で築130年の古民家なんです。5年ほど前、越してくるのを機に、私たちが暮らす一部分だけをリノベーションしました。それも、半分はDIYで。見て分かると思いますが、キッチンの壁や棚は主人と一緒に手作りしたものです。システムキッチンは色が気に入って、 40 年ほど前のものをそのまま使っています。
 リノベーションに当たってどうしても入れたかったのが薪ストーブでした。温かな家にしたくて…。私にとって薪ストーブは、温かな家の象徴なんです。温度ではなく、雰囲気のことですよ。もちろん、暖房器具としても芯から暖まるし、料理にも活躍してくれていますから、道具としても気に入っています」。
 子猫とじゃれていた次女のいちかちゃんが一言、「うちは茶色いです」と言った。確かにその通りだ。床や壁だけでなく、食器や家具、電球の色まで茶色を核とした暖色でまとめられている。小薗さんが求める温かな空気感に、この色彩が一役買っていることは間違いない。しかし、さらに話す中で、それだけではないことが分かった。

温もりの象徴薪ストーブ。

小薗家の遠景。周囲には、小薗家の田んぼが広がる。

日常使いの食器は、丸みのある木製のものが多い。

DIYによるパッチワークのような壁と棚。

子猫のこてつと遊ぶ次女のいちかちゃん。

茶色い空間をバックに際立つ真っ赤なりんご。

手間をかける喜びと 生まれる愛着

 小薗さんが『暮らしのてしごと屋』を立ち上げたのには、手仕事・手作りの素晴らしさを感じ、伝えたいと思ったからに違いない。では、彼女の思う手仕事・手作りの魅力とは何なのだろう。
 「始まりは、体を壊したことです。5年ほど前に大病を患い、食の改善に取り組むことにしました。当初は、かなりストイックにヴィーガンを実践し、その影響で主人も、父から受け継いだ水田で、無農薬の米作りをはじめました。現在は、動物性のものもたまには食べますが、野菜については無農薬や有機栽培にこだわって摂っています。
 そこに端を発して、石鹸やお茶、味噌、化粧水などを信頼できる天然の原材料で手作りするようになりました。側から見れば面倒なことですよね。でも、面白いもので、今では、石鹸をこねたり茶葉を煎じたりする時間こそ、私にとっては癒しの時間です。
 木製の食器は、たまに亜麻仁オイルで磨きます。鉄製の鍋も乾炒りをして油をなじませるなどの手入れをします。それらも私にとっては幸せなひととき。そうやって、手間を重ねて生まれる愛着あるものに囲まれて暮らすことも、温かな家づくりの一環です」。
 この家の顔でもあるキッチンは、すっきりと整理されており、使いやすそうな一方で、わずか5年とは思えないほど使い込まれた生活感が感じられる。そしてそれこそが温もりの立役者であり、道具に染み込んだ愛着が醸し出す幸せな空気感に他ならない。

小園さんが手作りしている食器用石鹸(白)とコーヒーを練りこんだ石鹸。

料理には、鉄鍋やスキレットをよく使用するそうで、手入れもまた楽しみのひとつ

手作りのほうじ茶に、炒った黒豆や玄米をブレンドしオリジナルのお茶に。

自家栽培の無農薬米と、地元から取り寄せた有機栽培の野菜。

ストーブに薪を焚べるのも幸せなひととき。

薪小屋から薪を運ぶいちかちゃん。

ご主人が営むラーメン屋の麺は、原材料にこだわり、ご自身で製麺している。

キッチンのカウンターは、築130年の家から出てきたながもち。

飾るように並べられている鍋類は、手入れの行き届いた愛着のあるものばかり。

いちかちゃんの今日のおやつは、薪ストーブで焼いた紅はるかの焼き芋。

子ども達に望むことと 家族の温もり

 この家の温かさは、使い込まれた道具や薪ストーブから醸し出される以上に、家族の笑顔から感じられる。取材の間、側で見守ってくれていた8歳のいちかちゃんは、ことあるごとに「好きなことで生きていく!」と口を挟む。おそらく、小薗さんが体現していることであり、子ども達に伝えてきたことなのだろう。
 「2人の娘に望むことは、自分のことは自分で決める力を持って欲しいということと、自然と共に生きることの素晴らしさを知って欲しいということです。その点についてはうまく育ってくれているような気がします。
 高校2年生の長女は、自発的にピアノを習いたいと1年間言い続け、ピアノ教室に通う傍ら、来年運転免許を取るための資金を稼ごうと、家業のラーメン屋でバイトしています。
 8歳の次女は、茶道に興味をもち、自らの意思で表千家のお教室に通っています。
 また、私を真似てお茶を煎じたり、田植えを手伝ってくれたり、森で拾ったどんぐりを炒って食べたり、蒸しパンやクッキーを手作りしてくれたり。2人とも自立心旺盛でなかなかのたくましさです。
 夫もまた、私の影響か、食にはストイックで、経営するラーメン屋では、麺もラー油も味噌も安全・安心を届けたいと、手作りにこだわっています。
 実は、私は、今も闘病中ですが、お医者様曰く、ありえないほど元気だそうです。おそらく、家族の温もりに支えられながら、ストレスのない暮らしをしているからでしょうね」。
 取材に訪れた私たちにと、有機栽培のさつまいもをストーブで焼いてくれたり、いつものほうじ茶に、炒った黒豆と玄米を入れた特別ブレンドのお茶を淹れてくれたり、小薗さんのもてなしはすべてが温かい。この空間から感じられる幸せな気分は、他でもない、小薗さん自身から発せられるものであり、それこそが小薗さんのスタイルだ。

お点前を披露してくれるいちかちゃん。