巻頭特集

子どもの力を育む家

人も動物も、生き物の多くは小さく産まれてきて、大きくなります。
なぜ大きくなるのでしょう?
いろいろな答えがあるのでしょうがはっきりとしているのは、生きていくため。

今回のテーマは「子どもの力を育む家」。
子どもたちが持って産まれた「生きる力を身につけようとする本能」=「大人になる力」を最大限に伸ばす家とはどんな家なのかを考えてみました。

人はどんな時、成長するのか

 周知の通り、成長とはただ単に肉体的に大きくなることだけでなく、心や知恵が長けることでもある。そういう意味では、大人になっても、成長することはできる。では、人はどんな時、成長するのか。
 伸びしろの大きな子どもたちと違って、大人の成長には強い意思と根気が必要だが、基本的な原動力は同じではないだろうか。それは、こうしたい、こうなりたいと願う気持ち。変わる必要も、変わりたいという気持ちもないところに成長は生まれにくい。だとすれば、子どもたちが持って生まれた「大人になる力」を伸ばすには、子どもたちが「大人になりたい」「あんな大人になりたい」「大人になってあんなことがしたい」とより強く思うことが大切なのではないだろうか。
 今回、そのことを教えてくれたのが平尾仁美さん。小学校6年生と3年生の男の子を持つシングルマザーだ。彼女の息子である麟太朗君は、早く大人になって自立したいと願っている。

平尾家のメンバー

平尾仁美さん 空間提案をはじめ、女性が自立し活躍する環境づくりをサポートする会社、株式会社ライフビジョン代表。2児を持つシングルマザー。

平尾麟太朗くん 平尾家の長男、小学6年生。小学生とは思えない落ち着きと自主性を兼ね備えている。

平尾快晟くん 平尾家の次男、小学3年生。几帳面な一面があり、掃除や整理整頓にはこだわりがある。


Lesson.01
全ての経験が大人になるための準備
子どもの世界に閉じ込めないで

 「先生がこんなこと言うねん。僕嫌や、何でそんなことせなあかんねん」。子どもが学校の先生に対する不満を漏らした時、あなたならどう答えるだろう。もちろん内容にもよるが、平尾さんの場合はこうだ。
 「そうか。でも、お母さんは先生を信じている。学校であんたらを守ってくれる先生を信じられへんかったら、お母さんはあんたらを学校に預けられへんからな。
 世の中にはいろいろな人がいる。先生とあんたの考えが違っても当たり前のことや。それに、先生があんたにそれを頼むのは、あんたがそれに向いているからやろ?サッカーでもそうやろ。守るのが得意な人が守り、攻めるのが得意な人が攻めて1つのチームができる。お母さんの会社でも数字が得意な人に経理をしてもらってるし、パソコンが得意な人にパソコンを使ってもらって会社が成り立っている。それが社会や」。
 平尾さんは子どもに何かを伝える時、子どもの目線に降りていくことはせず、大人の世界にあてはめて答えるのだそう。それは、子どもたちが受けた嫌な思いも悲しみも楽しさも、余すことなく大人になるための糧にしてやるため。10 年もしないうちに大人の世界へ飛び出す子どもたちが、そこで生き抜いていける力をつけてやるためだ。

仕事から戻ると、子どもたちが取り込んでおいてくれた洗濯ものを、話をしながら一緒に畳むのが平尾さんの日課

Lesson.02
まずは、子どもに任せる。
その上で、見守り・支えるのが親の役目

 子どもを子ども扱いしない平尾さん。しかし、それを実践するためには「信頼関係」という大きなベースが必要となる。自分の体から出てきた子どもなのだから、生まれながらにして信頼関係が備わっていると思うのは親のエゴだ。たとえ自分の子どもであっても、家族であっても、信頼関係を築くには努力が必要だと平尾さんは言う。
 「子どもと付き合う上で、私が大切にしていることが2つあります。1つは、見守り・支えるということ。子どもたちがさまざまな経験をする中で失敗したり、できなかったりすることをサポートしてやることで『何かあってもオカンが助けてくれる』と信じて、安心してチャレンジできる環境を作ってやること。例えば、学校でけんかをして傷を作って泣いて帰って来た子どもを見てどうするか。学校に乗り込んで責任を追求する。ケガをさせた子どもの家に謝罪を求めに行く。それは「見守り・支える」ではありません。まずは子どもにどうしたいのかを聞いてやること。そして、相手の子と仲直りしたいけれど、ひとりで行くのは怖いと言うなら、ついて行ってやって背中を押してやる。決着をつけるのは子ども自身です。自分でやらないと成長はありません。信じて任せないと、信頼関係は生まれません。
 前を向いて進むことができる人間は、ものを見極め決断できる人間。それができるのは、小さな頃からたくさんのことを自分で決断してきた人間です。子どもに決断させる。そのためには、任せないとダメなんです」。
 そう言う彼女も、以前は子どもが傷つかないよう、悲しい思いをさせないようにと、子どもの前に立ちはだかって、いろいろなことから守っていたのだそう。しかし、仕事を通してたくさんの家族に出会い、自分と同じ悩みをかかえている親を客観的に見ることができるようになり、今のような考え方に至ったのだそうだ。

自分のことは自分で管理

翌日の学校の準備をする快晟君。自分のことは自分で管理。忘れ物をしても自分の責任

洗濯された自分の服を畳んで片付けたり、その日着る服を選んで着たり、自分の服を自分で管理する麟太朗君

自分たちが使ったグラスを洗う麟太朗君と快晟君。自分たちのことは自分たちで

わが家はチーム。母はリーダー

 「お手伝いって変じゃない?自分が暮らすためにすることなんやから、それは自己管理やろ」。小学6年生の長男、麟太朗君の言葉だ。
 3年前に会社を立ち上げて以来、平尾さんが忙しい時には、洗濯や掃除などの家事を2人の兄弟がこなしている。特に麟太朗君は、当時まだ小さくトイレすら自分でできなかった快晟君の面倒を見るという重責も担っていた。「ママが安心して働けるのは僕らのおかげ。僕らが暮らしていけるのはママのおかげ」。家族という名のチームとして、一緒に暮らしを支えているという自覚が「手伝う」のではなく、「自己管理」という発想をもたらしている。自分たちは与えられた暮らしの中で生活しているのではなく、暮らしをつくる当事者なのだという自覚。
 「まだ小学生なのに、可哀そうね」。そんな風に思う人もいるかもしれない。しかし、そもそも、掃除機をかけたり、洗濯物を干すことは子どもにはできないほど難しいことだろうか。もし、できるのだとしたら、できることをさせないことの方が子どもの自信や成長を阻害しているのではないだろうか。
 実際、小さな頃は自信がなく気の弱かった麟太朗君が、自信を持って自分の意見を発言するようになったのは、家事を任せるようになってからだと言う。

掃除機をかける

洗濯物を干す

次男の快晟君はとても几帳面。一旦掃除をはじめると、納得のいくまで続けるのだそう

洗濯物を干す麟太朗君。いつ何を着たいか、いつ洗えばそれがその時に乾くかなどの計算もしているのだそう

夕飯の準備

片付ける

料理はできないけれど、準備はできるという麟太朗君。手料理でママを迎える日も近い

几帳面な快晟君は、収納の仕方、本の並べ方にもこだわりがあるよう

 「家族に家事を任せるにあたって、モノが見つけやすく片付けやすい環境づくりは心掛けています。でも、子どもに手伝ってもらうためのお膳立てはしていません。できるようになったからする。それだけのこと。
 例えば、竿に手の届かない次男の快晟がお兄ちゃんの真似をして洗濯物を干したそうにしていても、補助したりはしません。できないからできないだけです。それでもどうしてもしたければ、自分で踏み台を持ってくれば良いこと。それを考えて決断し行動することこそ、大人になる力を育む1つではないでしょうか。
 洗濯や掃除が彼らに課せられた義務だということではありません。していないからとか、上手くできていないからと叱る気は毛頭なく、むしろ、できていたら『ありがとう』を伝えます。大人の私でさえ完璧ではないのに、彼らに完璧を求めるのは違うと思っています。
 『うちの子、お片付けができなくて…』というお母さん。散らかった子ども部屋を子どもが学校に行っている間にキレイに片付けてしまっていませんか?片付ける必要がないから、片付けを覚えないんです。なのに、ある日突然『片付けないなら全部捨てるよ!』って、おかしいと思いませんか?

大好きな家具に囲まれて

平尾さんは賃貸住宅だからといって、インテリアを諦めたりはしない。賃貸でも使える剥がせる壁紙を貼った上からペンキを塗り、お気に入りのアンティークで自分好みの空間に

大人が楽しそうにしている姿が、子どもの力を育む

 長男の麟太朗君は早く家を出て自立したいと思っているのだそう。しかしそれは、今の暮らしから抜け出したいということではなく、自由に楽しそうに生きている母親の姿を見て、大人になることへの憧れを抱いているからだ。
 「ある作文の発表で、麟太朗がお母さんみたいに仕事の楽しめる大人になりたいと言ってくれたんです。私は、時には子どものことなどお構いなしに仕事に没頭しているし、休みの日には友達と飲んでいることも多い。そんな私を見て、大人って自由だ。大人って楽しそうだ。そんな風に大人になることに夢を抱いてくれたのだとしたら、こんなに嬉しいことはありません。私としては、自分のことに精一杯で、母親としてダメな自分を責めたこともありましたから…。
 今だから言えるのですが、親が楽しそうに生きることで、子どもが大人に憧れるようになる。それが、子どもたちの『生きる力=大人になる力』を育むのではないでしょうか。だから私は子どものために諦めたりしません。夢中に仕事をし、休みには思い切り遊び、家は自分の好きなように彩ります。この家は私の家。あなたたちも好きにしたければ、早く自分の家を持ちなさいってね」。

好きな本をゆっくり読む

平尾家の収納スペースは、りんごの木箱や板などをフレキシブルに組み合わせて作られていて、出来合いのキャビネット類などはほとんどない。本棚も足場板で作られている

Lesson.03
一番大切なこと。
それは、愛していると伝え続けること。

 子どもと付き合う上で平尾さんが大切にしていることのもう1つは、愛していると伝えること。
 「意外と子どもって、お母さんが自分のことを好きかどうか、自信がないものです。親なら誰しも自分の子どもは可愛いです。当たり前ですけど、子どもは不安に思っていることも多い。伝えないと分からないものなのです。
 わが家でも最近は、『かわいいなぁ』『大好きやで』などと言うと、面倒くさそうに『はいはい』とか『バカにしてるやろ』とか突っぱねられることもありますが、それでも良いと思っています。『うちのオカン、俺のこと大好きやねん』そう思ってもらえることが大切ですから」。
 どんなに忙しくても、1日に2時間くらいは子どもと話をしているという平尾さん。ただ子どもの話を聞くだけではなく、自分の仕事の悩みや、嬉しかったことも聞いてもらうのだそう。すると、子どもたちから思わぬアドバイスをもらえることもあるのだとか。
 子どもたちはそんな中で、大人への憧れを抱き、自然と大人になる準備をしているのではないだろうか。
 いつから大人になることが辛いこと、不自由なことのように思われるようになったのだろう。自分の足で立つことは本来、最も自由で楽しいことであるはずなのに。

どんなに忙しくても、子どもたちと話す時間だけは大切にしている平尾さん。3人の会話は対等で、親子と言うより友達同士のよう

家づくりも家族3人で。昨年オープンしたカフェ「CAFEKURO」も子どもたちと一緒にペイントしたのだそう

平尾家の会話には笑いが絶えない

食事の準備をしている間も会話に花が咲く

平尾さんのカフェ

平尾さんは現在、摂津富田・高槻・茨木で「OYATSUYA. ISU」を展開。
30種類以上のマフィンや焼菓子が大人気。イートインのランチやテイクアウトも行なっている。
https://twitter.com/oyatuyaisu

 

株式会社ライフビジョン:
女性が活躍するための環境づくり応援事業をはじめ、空間提案や各種セミナー・講演などを展開している。

平尾仁美さんのブログ http://ameblo.jp/ouchi-ijiri/