巻頭特集

人と地球にやさしい家 ~People & the Earth ~

選ぶ力と自由を楽しむ力

 二酸化炭素を出してはいけない。エネルギーを無駄遣いしてはいけない。空気や水を汚してはいけない。合成洗剤は使わない。使い捨ては良くない。「地球にやさしく」を目指す時、やみくもに「いけない」という言葉に追い立てられ、不自由で面倒なイメージを持つ人も少なくないだろう。しかし、そんなにストイックな話であるはずがない。なぜなら、今よりもずっと文明も文化も乏しかった時代の人々が当たり前のようにやってのけていたことなのだから。そもそも人間にはその力があるということだ。

 だからと言って便利になることを否定する必要はない。洗濯機がなくなったら、多くの主婦から自分の時間を奪うことになるだろう。車がなくなったら、物流が滞って困る地域ができてしまうこともあるだろう。
 求められているのは、今地球に起きている事実を知り、本当に必要なものとそうでないもの、便利かつ地球にも人にもやさしいものとそうでないものを取捨選択する力。そしてもう一つ、自由な発想で楽しむ力。
 例えば「テレビがなければ時間の使い方が分からない」これは、不自由だ。「すきやき鍋がないからすきやきができない」これも不自由だ。時に便利は人から創造力や知恵を奪い、不自由にしてしまう。あれがないなら、これでやってみよう。こうすればもっと上手にできるのではないか。そんな風に想像し創造するのはとても自由で楽しいこと。人にとってこれほど楽しいことがないからこそ、ここまで発展してこられたのだから。
 地球への負担と、便利さや心と体の安全や安心。これらのバランスを見極める力を持ち取捨選択しなが暮らしていくことが大切なのではないだろうか。
 今回は、そんな取捨選択と自由について和歌山で自然に沿う農業やカフェを営んでいる「米市農園」の高橋さんの暮らしを通して考えてみようと思う。

高橋さんが仲間と一緒に建てたカフェ「米市農園」(手前)と歴史を感じさせる住まい(右奥)。 母屋は一番新しいところで築100年だそう。

米市農園の看板

パンサンドランチセット(800円)

米市農園の麦畑

自由にしなやかに 正義はふりかざさない

「米市農園」髙橋洋平さんの生き方

米市農園とは

和歌山県紀ノ川市にある農園&カフェ。農業体験や各種ワークショップ、カフェで提供されるオーガニック食材を使ったメニューなどを通して、自然に沿う健やかな暮らしの魅力を発信している。

和歌山県紀ノ川市北中216
tel.0736-77-3716 http://komeichi.net
カフェ営業時間:木・金・土・日・祝/11~17時

「なければならない」とストイックに生きた時代

 紀州の豪農として戦国時代の記録にはすでにその屋号が記されているという「米市」。この家に生まれた高橋さんの母親は、継ぐ者がいなくなったこの家に夫と子ども達と一緒に戻り、花農家として暮らしていたのだそう。ところが間もなく夫が体を壊し余命宣告されてしまう。それを機に高橋さんたち姉弟は本格的に農業に取り組むことに。この時高橋さんは高校2年生。「やむを得ない」という気持ち以外なかったと言う。
 しかし、闘病中の父親の体を思うことから食を改善することの大切さに気付いた高橋さんは、無農薬・無肥料、耕さず虫や雑草とともに育てる自然農に出会い、農業への熱意と自然に生きることへの思いを深めていく。
 「当時は、どこまで自給自足できるか突き詰めようとしていました。食べ物はもちろんのこと、服も綿花を育てて糸を紡ぎ織って布にして作ろうとしていたし、このカフェも大工さんに基本を学び、解体現場から木材や土をいただいて仲間と一緒に手作りしました。
 その頃は思いが強すぎて、よく人とぶつかっていました。そして気付いたのです。僕がストイックに生きれば生きるほど追いつめられていく人がいる。僕が正義を振りかざせば振りかざすほど翻弄されて苦しむ人がいると。大切な人達が去っていってしまったこともあり、何のためにしているのか分からなくなって全て辞めて旅に出ました。3年前のことです」。

自然にシフトする風を起こす

 温暖化、砂漠化、オゾン層の破壊、生態系の破壊…数えきれないほどの環境問題は、どれも切迫している。これらは、地球の長い歴史の中で、わずかここ100年足らずの間に人間という新人が引き起こしてしまった異常事態。
 自分でエネルギーをつくり出せない人類は、自然の恵みをいただくことでしか生きていけない。綿花や羊毛、蚕の糸でできた服を着、木と土でできた家に住んでいる私たち。全て自然が生み出すものに支えられているという事実を謙虚に受け止め感謝し、自然と仲良く、共に心地よく暮らしていきたい。
 一度はニュートラルにシフトした高橋さんだったが、3年経って戻ってきた今もこの思いに変わりはない。ただ、アプローチの仕方が少し変わったようだ。
 「こうでなければならないと思うと、そうでないものは悪になってしまう。でも、そちら側にもそこへ至った理由があるわけですから、こちらの意見が通ったとしても、それを取り上げられて困る人もいるわけです。
 だから、それを越えるもっと良いコトや良いモノを生み出して”こっちの方が良いわ“ってみんなが自然にシフトしていけるのが一番。
 僕に出会った人が”こんな風に自然の中で自由に楽しく生きる方法もあるんだ と気付いて動いてくれたり、自然農で採れた野菜でつくったピザを食べて”自然農の野菜っておいしいなと思って広めてくれたら嬉しいな。昔は大きなことをして世界を変えたいと思ったこともありましたが、今は一対一の出会いでも、世界を変える風は起こせると思っています」。

オーガニック野菜がたっぷりのった米市ピザ(1,000円)。この日はビーツとたけのこ、ほうれん草のトッピング。ソースはトマト・味噌と豆腐・ジェノベーゼ・タヒーニの4種から選べる。

カフェで使う食材は野菜以外もほとんど自家製。豆腐や味噌は、大豆や麹からつくるのだそう。

シェフもこなす高橋さん。料理やピザの焼き方はいろいろな店を回って見よう見まねで覚えたのだそう。

仲間達と一緒に作ったカフェの店内。解体現場から木材や土を譲ってもらったのでかかった費用は30万円程度だそう。

高橋さんの活動に興味を持って訪れるお客様も多いので会話することも大切な仕事。

家の裏庭で飼われているフランス鴨とにわとり。にわとりの卵はカフェの貴重な食材。また、以前は解体して食用にもしていたそうだが、現在はほぼペット。

人をつなぎ思いを広げる ピザ窯とアースバッグ

 高橋さんの現在の活動は、農業、カフェの運営、各種ワークショップの運営、ピザ窯づくり、建築、絵を描く、音楽を奏でる、そして、自分が持っているさまざまな能力や経験を使って困っている人を助けること。”農作業を手伝って欲しいと言われれば行って手伝い”農業を教えて欲しい と言われれば家に住み込ませて教える。”ピザ窯を作って欲しい”小屋を建てて欲しいと言われれば全国どこへでも出かけて行って作る。お金があるならそれを元手に良いものを作り、なければなくてもできる方法を考え無償でつくる。しかし、なぜそこまでできるのか。
 「各地に僕らと同じような思いで活動しているコミュニティがたくさんあるのですが、意外に横のつながりがないんです。だから、僕があちこちに手伝いに行って仲間になっておけば、パイプになれると思ってやっています。例えば、徳島に行くという人がいれば、あそこにはこんなおもしろいコミュニティがあるよ。顔を出してみたらって言えるでしょ。そしたらそこでまた人がつながれる。
 それと、今一番したいと思っているのが全国各地にピザ窯を作ってまわること。
 例えば僕らと同じような思いでプロジェクトを起こしたいと思っている人がいるとして、一人で1から2、2から3と積み上げて行くのは並大抵のことではないんです。でも、そこにピザ窯があって”ピザパーティーするよって言ったら人が集まる。するとそこに仲間が生まれ、”こんなことしたいね、あんなことしたいねって妄想が広がって、目指す未来がイメージできてくる。すると、多少大変なことがあっても続けていけるんですよ。ピザ窯ってこんな風にコミュニティを立ち上げるのに役立つんですって。アメリカ人の受け売りなんですけどね。
 そうやって、僕らと同じような思いで活動している人やコミュニティがたくさんできれば、よりたくさんの人に”こんなに自由で楽しい生き方があるんだ って気付いてもらえるでしょ。最近は、アースバッグでも仲間が広がっていますね」。
 家が作れて食べ物にも困らず、化石燃料に頼ることもほとんどない。全国に仲間がいて、絵や音楽、ダンスなどに彩られ、それでいて日々焦ることなく、楽しそうで穏やかな生活。創造力こそが人を自由にし、自然が人に創造力を湧かせる。彼を見ているとそんな循環があるように感じられる。

Picture 宮古島(沖縄県)の自然を描いた高橋さんの絵。

Agriculture 夏に向けてトマトの苗を栽培中。敵を作らない高橋さんの農法では、虫も草も生かされている。また、化石燃料に頼らないよう、機械はほとんど使わず昔ながらの農機具を使って手作業するのだそう。

Earth Bag アースバッグとは、土嚢袋を積み上げてつくる家及び工法のこと。主な材料が土なので、ローコストな上にエコ、さらに難しい技術も必要なく仲間同士で作ることができるので、コミュニケーションツールとしても注目されている。このアースバッグは「ム バラッセワ」と呼ばれる高橋さん達仲間がワイワイする場所。

Stove Oven 高橋さんがつくるピザ窯はさまざま。耐火煉瓦を使って長く保つものをつくることもあれば、お金がなければ現地に落ちている石や土でつくることもあるのだそう。

Music ジャンベでリズムを奏でる高橋さんたちの音楽グループ「米市Kassa」のライブの様子。カッサとはアフリカの農業のリズムで収穫や農作業の時に歌われるものだそう。

高橋 洋平さん

和歌山県生まれ。「米市農園」代表。
「NPO法人和歌山エコビレッジ研究会」代表。
高校時代に家業を継いで就農し、赤目自然農塾(奈良県)に学ぶ。現在は、和歌山と宮古島(沖縄県)を行き来しながら次世代に豊かで美しい地球を継ぐためにさまざまな活動を展開している。