巻頭特集

インテリアから始まる家

良い家とはどんな家でしょう。耐震性に優れていて動線がスムーズで…いろいろあるとは思いますが一番大切なことは、居心地が良いということではないでしょうか?だったら居心地を考えた家づくりをしたいですよね。

今回は、建物としての家を考える前に居心地の良い空間づくりに欠かせない、インテリアから始める家づくりについて考えてみました。

始まりは 「天井」と「床」



「北の椅子と」 店主 服部真貴さん

 神戸港の南端、大規模な工場が立ち並ぶ和田岬に北欧ヴィンテージ家具の人気店「北の椅子と」はある。赤茶色のトタン屋根が印象的なこの店は、かつて製材所だったそうで、その面影は外観だけでなく、店内にも色濃く残っている。とくに、2階のカフェは顕著だ。そこには店主の服部さんの思いが詰まっている。
 「2階にカフェを併設すると決めた時、真っ先に考えたのが、天井と床を製材所当時のままで活かしたいということでした。老朽化していたし、さまざまな制約がかかってしまうので、それは難しいとあちこちからアドバイスされましたが、私にとってはそのまま使うことこそが、この空間のコンセプトのようなもの。譲ってしまったら根底から崩れてしまうと思い、死守しました。おかげで2つとない温かな空間になったと満足しています」。
 店の真ん中に置かれた大テーブルも当時の作業台をそのまま使っていて、北欧ヴィンテージのテーブルや椅子の使い込まれた風合いとも相まって、何とも穏やかな空間となっている。また、服部さんによると、明るすぎないことも落ち着く空間づくりのポイントだそうで、こちらではそれぞれのテーブルに一燈ずつ60ワットのペンダントライトがほんのりと落とされ、席ごとにほどよいプライベート感が演出されている。

空間づくりのポイント
チェストでも、ランプでも、タイル1枚でも
使いたいものひとつから世界を広げる

 仕事柄、お客様からインテリアについてのアドバイスを求められることが多い服部さん。漠然としたイメージをまとめあげるには、たった1つのお気に入りがあれば良いと言う。
 「部屋をコーディネートしようと思って、いきなりインテリア雑誌を開くと、これもいいな、あれもいいなと目移りしちゃいますよね。そういう時は、大きいものでなくてもいいので、その空間で使いたいお気に入りを1つ見つけるとまとまりやすいと思いますよ。
 例えばランプ1つ、タイル1枚でも、使いたいものがある時点で、実はみなさんの中にはイメージが湧いているんです。だから、それを使うことを念頭に置いてインテリア雑誌を開いてみると、目移りせずに具体的なイメージが絞り込まれてくるものです。
 実際、私たちのお店でも、この椅子が置きたいんだけど、どんな部屋にすればいいですか?などと相談してこられるお客様がいますが、実はその時点で潜在的にはしっかりとしたイメージを持っていらっしゃるので、私たちはお話を聞いたり、参考になる写真を見ながらその方の中にあるイメージを引き出してあげるだけでいいんです」。
 ”お気に入りの何か“こそがその空間のコンセプトだということなのだろう。軸さえしっかりしていれば、後は試行錯誤しながらイメージに近づけていけば良いのだ。

「北の椅子と」服部さんに聞く
北欧ヴィンテージ家具の魅力

 「北の椅子と」で扱っている家具は、北欧の中でもデンマーク製のものが多い。服部さんがデンマーク製にこだわる理由は大きく2つ。デザインとサイズ感が日本の住宅に合うという点だ。
 国土も狭く資源も潤沢ではないデンマークでは戦後、外貨を稼ぐための産業として国をあげて工業デザインに力を入れたのだそう。その結果、シンプルだけどデザイン性に優れた繊細な工業製品が多く生まれた。
 また、人口の80%近くが首都のコペンハーゲンに集中しているため地価が高く、住宅が狭いことから家具はコンパクトに設計されており、サイズ的にも日本の住宅に合いやすいというわけだ。
 さらに面白いのは、ただ小さいだけでなく、使う時は大きくなって片付けると小さくになるとか、あれにも使えてこれにもなるといった無駄を減らすためのアイデアが豊かなところだ。
 そういう視点でみるとデンマークのヴィンテージ家具の魅力はさらに深まる。

天板を引き出すと大きくなるエクステンションのダイニングテーブル。

一見するとただのチェスト

開くとドレッサーにもなる

デンマーク家具の 取っ手の表情あれこれ

デザインの繊細さは、取っ手の加工からもうかがえる。

空間づくりのポイント
目線とスペースの緩急で 見え方をつくる

 イメージの柱がしっかりと決まったら、次はそれを具体的なレイアウトに落とし込む作業だ。家具のレイアウトは、基本的には生活しながら使いやすいように改善していけば良いので、ここでは「北の椅子と」のカフェを参考に、見せ方のポイントについて伺った。
 「インテリアは好みによるので正解などないと思いますが、ひとつ参考になることと言えば、目線ですね。
 例えば、この店だとまず、お客様が入り口から入ってきた時に見える景色を大切にしています。瞬時に見えるのは概ね右はレジカウンター、中央は窓辺のロッキングチェアーが置かれた席、左は角のまるテーブル席だと考えて配置しています。そして、見せたい景色の周囲にはあれこれ置かず、空間に余白を持たせることでそこを粒立たせています。
 同じ1脚の椅子でも、何もない空間の真ん中にポツンと置けば目立つけれど、たくさん物が詰め込まれた中にあると、見えてきませんよね。それと同じ、スペースに緩急をつけることで見せたいものを浮かびあがらせることができます」。
 この考え方を家に当てはめると、あなたの視線、つまりあなたがよく居る場所から見える景色を、あなたが見たい風景にしておくということ。例えば、台所に立っている時間が長ければ、そこから見える景色。リビングで座る場所が決まっているなら、そこに座った時に見える景色を好きな風景に整える。好きな風景は人それぞれだが、粒立たせたい家具や絵などがあるなら、その周囲に物を置きすぎないのがコツということだ。
 そうしてイメージした空間が収まる器が家だ。インテリアがしっかりとイメージできれば、窓の位置や天井の高さ、床や壁の素材や色など、器としての家のイメージも見えてくるのではないだろうか。

左奥角の窓辺にある丸テーブルの席は、左右の客席から離して配置されていて独立した空間となっている。

入り口正面にあるロッキングチェアの席は赤いラグでゆるやかに空間を仕切り、窓の外に視線がいくように椅子が設置されている。

取材協力:北の椅子と
神戸市兵庫区材木町1-3
TEL.078-203-4251
営業時間 11:00 ~ 18:00 (喫茶L.O. 16:00)
定休日 水・土定休
※ 配送・イベントなどにより臨時休業有り

始まりは「L i s a L a r s o n 」

神戸市 紺屋由美子さん

 まるで小さな北欧雑貨店のような部屋。紺屋さんがここに越してきたのは今から6年前のことだそう。当時ははミッドセンチュリーと呼ばれる1940年代から1960年代にアメリカで生まれたデザインのものを好んで使っていたが、あるものがきっかけで北欧デザインに心酔していったと言う。
 「ミッドセンチュリーを好んだ時代から、マリメッコ(北欧フィンランドを代表するテキスタイルのブランド)のファブリックなどは使っていたので北欧デザインには一目置いていました。でも、本格的に魅せられたのはリサ・ラーソン(北欧スウェーデンを代表する陶芸家)の小さな花瓶がきっかけです。実用的なのにこんなに可愛いものがあるんだと感激しました。同じリサ・ラーソンでも、最初は現行品で満足していたのですが、徐々にヴィンテージの持つ一点ものの魅力、運命としか言えない出会いに惹かれていきました」。
 彼女が持つリサ・ラーソンの作品は現行品からヴィンテージまで全13点。まだまだ増えそうな勢いだ。

 

空間づくりのポイント
大好きな小物たちのためにつくるインテリア

 リサ・ラーソンをきっかけに北欧雑貨に心酔していった紺屋さん。
 すると今度は、それらをどう飾ろうかと考えるようになったのだそう。そしてたどりついた結果が、北欧のヴィンテージ家具やファブリックで部屋をまとめること。やはり、北欧の雑貨は北欧インテリアの中に置かれるのが一番だと思ったと言う。
 「改めて考えると、北欧のヴィンテージ家具が欲しいと思ったのは、大好きな北欧雑貨を飾りたかったからなんですよね。家具を探す時はもちろん、木目の温かさや繊細なディテールにも惹かれるのですが、それ以上に、”その上に何を飾ろうか“とか、逆に”これを飾るための家具はないか“などの視点で探しています。
 この家も、まだ、整えたい部分はありますがかなり満足しています。遊びに出かけていても、家へ帰るのが楽しみですもの」。
 本来は、読みものや書きものをするためのマザーデスクだが、紺屋さんにとっては大好きなカップ&ソーサーのための飾り棚。パン屋のショーケースだった棚にもショップさながらに北欧の雑貨が飾られている。リサ・ラーソンの小さな花瓶が部屋全体を変えてしまったということだ。

最近購入したというパン屋で使われていたらしい日本製の棚にも、お気に入りの北欧雑貨が贅沢に並べられている。

リサ・ラーソンとの出会いは洋服の形をしたドレスシリーズの花瓶。玄関のニッチで帰宅する紺屋さんを迎えてくれる。

天板を引き出すとライティングテーブルになるマザーデスク。大好きなアラビア(フィンランドを代表する食器ブランド)のカップ&ソーサーを飾るために購入したのだそう。

所狭しと大好きな雑貨が飾られているリビングダイニング。

紺屋さんお気に入りのカップ&ソーサー。

始まりは 「すでにあるもの」

D + E M A R K E T 吉田紀子さん

 ペパーミントグリーンの外壁に風に揺れる木立。まるでロンドンの郊外にでもありそうな一軒家の扉を開けると、使い込まれたヨーロッパ製のドアノブやスイッチ、さらに別の部屋にはアンティークの家具や雑貨が所狭しと並んでいる。ここはD+Eマーケット、家や店の空間づくりを手がける会社兼お店だ。吉田さんはここでインテリの提案とアンティーク商品の買い付けを担当している。年に4回程ヨーロッパに出向き、リノベーションや新築する住宅や店舗に提案する家具やファブリック、パーツや雑貨などを買い付けてくるのだそう。
 「アンティークの魅力は何と言っても使い込まれた風合いと、この世に一つしかないものに出会えたことの喜び。そして、インテリアをご提案する者としては、現代の日本のご家庭において、ヨーロッパの、時には何に使われていたのかすら分からないような古道具をどう活かすかという、創意工夫の楽しみでしょうか。
 例えばこの扉(右下写真)は、高さが150㎝程度ですからおそらくクローゼットの扉か何かだと思います。いい感じなので特に目的もなく仕入れて、置いてあったんです。ある時ふと、ここの扉(事務所とお客様スペースを仕切る扉)に良いんじゃないかと思いついて入れてみると、測ってもいないのに幅や高さがぴったりなんです。こういう運命のような活かし方が見つかった時は、楽しくてたまりません。
 こんな風に、既にあるものをどう活かすか考えることから新しいインテリアを生み出すのも楽しいと思いませんか?
 リフォームしたからと、全てを新しいものに入れ替えるのではなく、昔から使っている何かを活かすところから始めて見るのはどうでしょう。見慣れた棚も横に倒してみたら新しい使い方や表情が見えてくるかもしれません」。
 鳴り物入りのアンティークやヴィンテージでなくても、古くなって味わいを増している物は意外とどの家にもあるのではないだろうか。それを活かすことで、新しい空間をつくるというのも、楽しい始まり方だ。

おそらく大型家具の扉だったと思われる事務所を仕切る扉。設計段階からサイズを測って入れたのではなく、後からはめてみるとぴったりだったそう。

そもそもは横長に使う棚だったものを縦に使って、雑貨を展示している。

まとめて手に入った古材をヘリンボーンに組んで風合いある床に。

使い込まれたドアノブやスイッチなどを取り付けるだけで空間に温かな表情が生まれる。

D+E Marketでは、ヨーロッパのアンティーク家具や雑貨も販売している。

空間づくりのポイント
目的を見極め、主役を見つける

吉田さんがコーディネイートした空間。もともと何つ使われていたのか分からない「小引き出しのたくさんついた大きな棚」をどうやって活かすかが、この部屋の鍵だったそう

 空間のつくり方として最も順当だと思われる方法。それは、その空間で最も仕事をする物=主役を一番に置いてみることではないだろうか。
 例えば、ダイニングならダイニングテーブル、ベッドルームならベッドであることが多いだろう。吉田さんも、この(写真右下)お客様スペースをつくる時には、お客様との打ち合わせに使うテーブルを最初に置いたそう。
 「ここをつくった目的はお客様や業者さんとの打合せスペースが必要だったからなので、主役はテーブルでした。だからまずは、広さや素材、引き出しの有無などをオーダーして打ち合わせに最適なテーブルをつくって置きました。それを中心に、弊社が得意とする、アンティークの家具や雑貨で構成しました。最も働く主役のテーブルと弊社のセンスを感じてもらうための周辺家具や雑貨、両方が助け合って、打ち合わせをより良いものにしてくれるんです。つまり、インテリアを考える時の第一歩は、その空間をつくる目的と、その目的のための主役を見つけることではないでしょうか」。
 ダイニングの場合、ダイニングテーブルが主役になることが多い。しかし、あなたにとってダイニングをつくる目的が家族団欒や趣味に没頭することなら、ダイニングの主役が、温かな光を灯すペンダントライトでも、小さな花瓶でも、床や天井でも良いということだ。

吉田さんが働いている事務所は、お客様や施工業者との打ち合わせが多いので、大きくて使い勝手の良いテーブルが主役。

ダイニングテーブルを主役に、シンプルにまとめられた空間。壁のタイルが部屋のアクセントになっている。

取材協力
D+E MARKET Kurakuen
兵庫県西宮市北名次町10-22
TEL.0798-39-7300
営業時間 12:00 ~ 18:00 定休日 水曜日

D+E MARKET Ashiya Cont ’ d
兵庫県芦屋市大桝町3-18
TEL.0797-26-8284
営業時間 12:00 ~ 18:00 定休日 水曜日

※2017年2月取材時の内容となります。