The Study

History

 草木の緑、空の青、花の赤。色は太古から地球上に溢れていた。動物の中には、鮮やかな色を放つことで雌を引き寄せるものもあり、古代人類もまた、植物や土から色を抽出し、刺青や壁画を描いていたことは、周知のことだ。ただし、それぞれに色名をつけて認識していたかは不明だ。
 一方、日本はと言うと、古代、初めて色名がつけられたのは「アカ・クロ・シロ・アオ」だったそう。一説には、「明(めい)・暗(あん)・顕(けん)・漠(ばく)」に由来すると言われており、『明』は朝焼けのアカ、『暗』は闇のクロ、『顕』は日中の辺りがはっきりと見える様のシロ、『漠』は明と暗の間のアオだそうだ。もちろん、それ以外にも色は認識されていたが、色名として独立したものではなく、『アカネ』や『ムラサキ』など、材料そのものの名前を使って呼んでいた。また、興味深いことに、万葉集では色のことを匂いと表現しているものが多い。例えば、「紅にほう桃」は「紅色の桃」。つまり、奈良時代、色は匂うものとされていたことが分かる。馴染み深い「色は匂へど散りぬるを(いろはにほへとちりぬるを)」はまさにそれを証明している歌だ。
 近代に入ると色彩論が形成され始める。その第一人者があのアイザック・ニュートンだ。プリズムによって光を7色に分けたことで色彩論の礎をつくった。また、詩人のウォルフガング・ゲーテは、生理的な観点から色彩論を提唱し、芸術家たちに影響を与えた。色は、科学であると同時に情緒に訴えるものでもある不思議な存在だ。近年では、色を使った医療も検証されている。何れにしても、とても身近でありながら不可解かつ高い可能性を秘めたものだと言える。

色で暮らしを豊かにする

 みなさんは色と聞いて、何をイメージするだろうか。絵の具?ファッション?花?
 無彩色も含めれば、目に見えるもの全てに色がある。つまり、世界は色で溢れていて、私たちは色に囲まれているのだ。しかしどうだろう。私たちは、こんなにも身近な色というものを、うまく使えているだろうか?
 ファストフード店にはよく赤が使われている。なぜなら、赤は興奮やスピードを感じさせる色だからだそう。お客様のフットワークを軽くさせ、回転率を上げる狙いだ。逆に、病院のインテリアに赤を見かけることはほとんどなく、淡いブルーや緑がよく使われている。それは、清潔なイメージやリラックス効果が得られるからだ。
 このように、色が心身に与える影響は大きく、うまく使えば、さまざまな効果が得られる。
 自分をよりよく表現するために、似合う色の服やメイクを選ぶように、より豊かな暮らしのために、空間の色を選んでみてはどうだろうか。
 まずは、色の基礎知識から学んでみよう。

色の構成要素
<色の三属性>

色の体系を理解する上で基本となるのが、「色相」「彩度」「明度」の三属性だ。色はこの三属性の掛け合わせで説明することができる。

純色における色相と明度の関係
各色相の中で最も彩度の高い色のことを純色と言い、純色で比較した場合、最も明度の高いのが黄、低いのが青紫だ。

色の印象と効果
<イメージ>

人が無意識に色に抱く印象は、ほぼ共通している。ただし、それぞれの色の印象はひとつではなく、環境や状況によって大きく異なる。例えば、白の場合、「清潔で神聖」に感じる時もあれば、「冷たく殺伐とした印象」に見える時もある。その結果、同じ色でも、プラスに働いたり、マイナスに作用したりする。

色の印象と効果実例

上記のように、色には感情を左右する力があり、比較的誰もが同じように作用する。ここでは色を「暖かい・冷たい」「軽い・重い」「やわらかい・かたい」「派手・地味」に分類し、背景に用いた場合、どのような効果が生まれるかを対比しながら見ていこう。

暖かい色と冷たい色
(色相による違い)

炎や太陽光を連想させる赤や、オレンジ、黄などの色を暖色、海や水を思わせる青や青緑などの色を寒色と呼び、心理的な温度差は3℃もあると言われている。

軽い色と重たい色
(明度による違い)

色に感じる重さは、主に明度によって決まり、明るく淡い色は軽く、暗く濃い色は重く感じる。また、明度の高い色は実際より大きく見える膨張色、明度の低い色は収縮色とも言われている。

やわらかい色とかたい色
(明度と彩度による違い)

色のやわらかさは、明度と彩度のバランスによって決まる。明度が高く彩度が低い色(明るくくすんだ色・ぼやけた色)はふんわりとやわらかく、明度が低く彩度が高い色(暗くて強い色・はっきりとした色)は、かっちりとかたい印象となる。

派手な色と地味な色
(彩度による違い)

派手な色と地味な色は主に彩度に左右される。彩度が高い鮮やかな色は陽気で派手な印象、彩度が低いくすんだ色は落ち着いた地味な色と言える。

色の組み合わせ 1
<色相で合わせる>

「黄・オレンジ・黄緑」や「ピンク・ピーチ・パープル」など印象の近い色相でまとめると、奥行きが生まれより効果的な空間が生まれる。どんな気分で過ごしたいかで空間の色を選んでみよう。

Yellow
明るく笑顔が絶えない空間づくりに

イエローは鮮やかで若々しく、エネルギーのみなぎる色。親しみやすく、愉快な気持ちにさせてくれるので、ダイニングやリビングなど、コミュニケーションが生まれる空間におすすめ。

Pink & Purple
幸福感に包まれる空間づくりに

優しい雰囲気のピンクは心理的なマイナスが最も少ない幸福の色。また、ミステリアスな印象を持つパープルは感覚を敏感にし、心を癒してくれるので、子ども部屋やベッドルームなどにおすすめ。

Red & Orange
パワーチャージできる空間づくりに

アドレナリンの分泌を促し、あたたかさを感じるレッドは、外に向かう情熱的なパワーを備えている。また、オレンジは、食欲を刺激する色でもあるので、キッチンやダイニングにおすすめ。

Blue & Green
心からリラックスできる空間づくりに

海や空を連想させるブルーには、副交感神経を刺激し、気持ちを沈める効果があり、木々を連想させるグリーンはくつろぎを与えてくれる。疲れを癒してくれるこの配色はベッドルームにおすすめ。

色の組み合わせ 2
<トーンで合わせる>

上頁では、色相を揃えることで空間にまとまりをつくり、色が心に作用する力を効果的に発揮させた。ここでは、明度と彩度を組み合わせた『トーン(色調)』で、同様の効果について紹介したいと思う。

トーン別空間の実例

上記のマトリクスでは、代表的なトーンの分布を紹介した。このトーンを揃えることで、インテリアに統一感が生まれ、同時に感情を効果的にコントロールする力が生まれる。では、どのような気分を演出することができるだろうか。「HAPPY」「HEALING」「FRESH」「ELEGANT」「NATURAL」の5つの実例を次ページで紹介しよう。

HAPPY

元気をくれる幸せなトーン。
陽気、パワフル、楽しい、
にぎやか、活発、フレッシュ

彩度が高い色には、パワーがあるので、元気をくれる。子ども部屋はもちろん、リビングやダイニングの一部、トイレや玄関のニッチなどにもおすすめ。

HEALING

爽やかで癒されるトーン。
爽やか、癒し、清涼感、
なごやか、ぬくもり、モダン

ペールトーンと呼ばれる、彩度が低く明度が高い色でまとめると、柔らかで優しい空間が生まれる。ベッドルームやバスルームなど、くつろぎの空間におすすめ。日本人には人気のトーン。

FRESH

爽やかで健康的なトーン。
新鮮、ハツラツ、健康的、みずみずしい、弾ける

ペールトーンの彩度を少しあげると、爽やかで軽快な印象になる。多少の刺激もあり頭の動きをよくしてくれるので、子ども部屋やミーティングルームなどにおすすめ。

ELEGANT

豊かで洗練されたトーン。
深み、都会的、シック、知的、
クラシック、ドラマチック

このトーンは、ドラマチックな中に知的な印象を併せ持つ多彩な空間をつくる。寝室などのくつろぎの部屋にも、集中力をあげたい書斎などにもおすすめ。

NATURAL

気持ちを穏やかにする落ち着いたトーン。
穏やか、落ち着き、くつろぎ、
安らか、優しさ、堅実

最も彩度が低いトーン。アースカラーに代表されるエコロジーな印象で、穏やかで暖かな空間が生まれる。リビング、寝室、ダイニングどこにでも対応できるが、使いこなすのにコツが要るインテリア上級者のトーン。

失敗しない空間の色選びの手順

ここまで、色選びの基礎知識について述べてきたが、実際は何よりも本人の好みが大切だ。では、どうすればうまく自分好みに仕上げることができるのか?今回の記事を監修いただいたカラーデザイナーの秋山千惠美さんに手順やコツを伺った。

STEP.1
自分が求めている色やトーンを見つけよう

 みなさんは、自分の好きなトーンをご存知でしょうか?まずは、そこから調べてみましょう。今からつくる空間で、どのような気持ちで過ごしたいかを思いながら、イメージに近い画像を集めてみてください。その共通点を見つけるけることで、自分が求めているトーンや、キーカラーが見えてきます。

STEP.2
後で変更しにくい部位(もの)の色を先に決めよう

 トーンやキーカラーが決まったら、まず最初に、床材や建具など、後から変更しにくいものの色を決めましょう。具体的に自分がイメージしたトーンの色を床材サンプルにのせてみるなどすると、分かりやすいでしょう。例えば、このような組み合わせがおすすめです。

明るい色のメイプル材には、淡い色を合わせれば広さが演出でき、濃い色を合わせればコントラストが強調され、アクセントになります。

バランスの良いオーク材には、寒色系を合わせるとクールモダンな印象に仕上がります。

赤みの強いチェリー材には、暖色系がおすすめ。類似の色相を重ねることで、相乗効果が生まれ、上質な温もりのある空間に仕上がります。

ウォールナットなどの深い色が床にあると、重心が下に置かれ安定するので、色合わせは万能。淡い色でも、濃い色でもマッチします。

STEP.3
インテリアは、最初から決め込まない

 インテリアは、最初から全てを決める必要はありません。カーテンやラグなど、取り替えが効くもので調整しながら作っていきましょう。トーンが揃いすぎて退屈な印象になってしまった場合は、クッションなどでアクセント色を入れてみるのも良いでしょう。また、光の入り方やライティングによっても色の印象は大きく変わるので、念頭においておきましょう。いずれにしても、家をゆっくりと育てていく気持ちで取り組むことをおすすめします。

株式会社カラーワークス カラーデザイナー
秋山 千惠美さん
一般住宅から企業、店舗まで、空間や商品の色を幅広く提案するカラーデザイナー。色を使ったマーケティングやプランニングのセミナーの講師も務める。色の開発に携わったカラーワークスのオリジナルペイント「Hip」は『グッドデザイン賞』を受賞。一般社団法人 日本カラーマイスター協会代表理事並びに、色彩を研究する米国カラーマーケティンググループ唯一の日本人メンバーでもある。

取材・写真協力

株式会社カラーワークス
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