巻頭特集

子どもの力を伸ばす家

2002年に始まったゆとり教育。「生きる力を育む」という大義の下にそれまでの授業内容を約3割カット。代わりに「総合的な学習の時間」が導入されました。
 野菜の栽培から販売までを体験させてみたり、芝居を企画や台本作りから上演までやらせてみたり。
 しかし、この大改革は2011年、わずか9年で終わりを告げました。主な理由は、学力の低下に危機感を覚えるとの世論が高まってきたため。
 ゆとり教育については未だに賛否両論あります。しかし、ゆとり教育を受けた世代が社会人として活躍し始めた今、前例や周囲に踊らされず、独自の視点で活動する若者が増えているとも言われています。

 「生きる力」とは何なのか。

 今回は、子どもたちに、自分で発見し、考え、創造する実践力を育んでもらおうと活動されている方々にお話を伺いました。
 これもまた「生きる力」の育み方のような気がします。

※ゆとり教育は、1980年、1992年、2002年の3段階で導入されており、開始年が1980年とされる場合もある。

かか、ふうと、とと

【自分を表現することから はじめよう】

 「黒い壁で、青い扉の家です」と説明を受けて向かったのは、料理創作ユニットGomaのアラキミカさんの自邸。そこには、言葉通りの家があった。
 Gomaは、料理を中心に、ものづくりを通して子どもたちに『生み出す喜び』や、『表現する楽しさ』を伝えているユニットだ。「料理を中心にものづくりを通して」の言葉の意味は、彼女たちの活動において、料理とものづくりの間に垣根がないから。料理で絵本を描いてみたり、オブジェのような料理をつくってみたり、一般的な大人なら既成概念を打ち砕かれ、目からウロコがあふれ出ることだろう。
 アラキさんによれば、始まりは遊びだったそうだ。楽しいと思いながら続けているうちにさまざまな方面から声がかかり、気づけば20年近いキャリアになっていたと言う。
 一方、彼女には、12歳の子どもを持つ母という顔もあり、その子育てぶりもまた独特だ。
 自発的に創造する力、豊かな表現力。一人息子の「楓人君」を眺めていると、そんな言葉が浮かんでくる。彼が育った背景を探ってみることにした。

「合体してみてください」

 撮影当日、一切の前置きをせず「家族写真を撮りたいのですが、合体してみてくれませんか」とお願いしてみた。すると家族は相談し始める。
父:「組体操みたいなことかなあ?」すかさず、息子の楓人(ふうと)君がお父さんの背中に飛び乗る。
母:「かか(母)は家を表現したらいいと思うんだけど、どう?」
子:「えー、合体でしょ。こんな風がいいんじゃない?」
   小さな家族会議が始まった。
   何案か思いついた様子だったが、まずは楓人君の案から実践。撮影された画像を確かめて、楓人君が
子:「とと(父)の手の位置が低い」と注文をつける。終わるとミカさんが
母:「かかの案もやってみてよ」と提案する。楓人くんが「はいはい」と少し面倒くさそうに答える。やってみるが、画像を確かめ、楓人君の案が採用となった。
子:「ほらね」この間約10分。短い時間だったが、この家族が持つ日常の空気を垣間見た気がした。

のびのび育てることと 好き勝手させること

 楓人君が生まれた頃のミカさんは、ケータリングやイベントの仕事に加え、雑誌の取材や書籍の出版などが重なり、多忙を極めていた。し かし、"3歳までは他人には預けな い“と保育園には入れず、週3日を 親戚に預け、残りは現場に連れて歩いたのだそう。その結果なのだろうか、楓人君は、どんな大人にも動じず、すぐに場に馴染み、ふわふわとマイペースに行動する。
 ミカさんに「子育てに悩んだことはないですか?」と尋ねると、
 「考えたこともなかったです。私の都合であちらこちらに連れ回しましたが、どんな現場でも、周りを煩わせることもなく楽しそうにひとりで遊んでくれていました。そう思うと、感謝しかありませんね」とのこと。では、叱るようなことはなかったのだろうか。
 「もちろん、あります。片付けをしない時などは普通に怒りますよ。私がこんな(自由奔放な印象)だから何でも好き勝手させているように思われがちなんですが、自由にもルールがあると思っていて、人を不快にさせるようなことをしたら叱ります。のびのび育てるのと好き勝手させるのとは違うでしょう?レストランで走り回ったら叱らないと。第一、子どもが可哀想ですよ。親のしつけが至らないせいで、周囲から不快に思われるんですから」。

 
 今回の取材でも楓人君はマイペースに見えて、「撮影させてほしい」とお願いすると夢中になっていたゲームを置いてさっとスタンバイしてくれたし、「いつも通りに動いて」言うと気負うことなくソファにゴロゴロ、「合体して」と言うと楽しそうにアイデアを出してくれた。自分に求められていることをよく理解し、柔軟に立ち回ってくれるのだ。し かし、いわゆる" いい子“というのと も違う。このしなやかさはどこから生まれたのだろうか。

頭に思い描いたことを表現するトレーニング

 子育てに悩むことはなかったというミカさんだが、子どもを対象としたワークショップを開催する中で、さまざまな子どもに出会い、それぞれの反応があまりに異なることに驚いたそう。
 「子どもは、本当にそれぞれですよね。私たちのワークショップでは、 最初に見本を見せます。でも"同じ じゃなくていいんだよ“とも伝えま すから、より個性が出ます。そもそも、それが狙いでもあるんです。
 自分が頭に思い描いたものをまっすぐに出すことって、簡単そうに見えるんですが、小さな子どもでもすでに、周囲の目や失敗を恐れて素直に表現できない場合もあります。そういう時は、言葉を掛けて頭の中にあるものに気づかせてあげたり、固まった頭が柔らかく動くよう『こうしたら面白くなるんじゃない? 』とアイデアを投げてみたりします」。
 では、楓人君に対してはどうしているのだろうか。
 「夫はデザイナーですし、私も創作好きなので、親が二人して楓人の表現を面白がってみていて、その点については好き勝手させています。それどころか、楓人が材料が足りないと言えば、せっせとダンボールを拾ってきたり、セロハンテープをぐるぐる巻きにして作品を作っていた時には、いそいそとセロハンテープを買いに行ったり。最近は、私が使っていた練り消しゴムを粘土のようにして怪獣を作り出したので、今度はおばあちゃんが練り消しゴムを買い与えていましたね。そういう意味で楓人は環境に恵まれているので、表現するトレーニングは人一倍されているかもしれません。勉強は教えられないので、せめてそれくらいはね。

トイレの壁はピンク。お気に入りのアートを徐々に飾り進めて、いつかは壁いっぱいになることを目指しているのだそう。

2階のリビングダイニングの壁はブルー。欲しかった庭が作れなかったので、家の中に青空と伸びる木を表現した。

 思い描いたものを表現することは、楽しいだけでなく、想像力や発見する力、気づく力、生み出す力など、考える力を幅広く育むと思うので、人生において、さまざまな局面で役立つのではないでしょうか」。
 『考えて作る』というシンプルな行為は、当たり前のことのように思えるが、与えられる楽しさが氾濫している昨今、自分で考える楽しさにたどり着くのは意外に難しいのかもしれない。

アラキさんの家には、ワクワクがいっぱい!

アラキさんのご自宅は、キレイな 色で溢れている上に、黒板塗料で木を描いたり、アンティークのフォークとスプーンを 取手にしたり、遊び心も満載。それに 囲まれて育った楓人君の作品もまた、楽しい色彩と遊び心に溢れている。

1階の何でもルームの壁は黄色。日が差さない部屋なので、明るい黄色にした。

3階へ上がる階段から、ユーティリティとして使用されている3階の部屋の壁は、やや落ち着いた緑。

寝室の壁はパープル。天井が低めで、穴蔵にいるような落ち着きを感じる。

いらなくなった積み木を洗面室の扉の取手に。

フランスの蚤の市で購入したアンティークのスプーンとフォークを収納庫の取手に。

作り上げること、 続けること、残すこと

楓人君の作品。タコが一番古く、小学校1年生の時のかか(母)への誕生日プレゼント。手前のマトリョーシカは、とと(父)へのプレゼイント。ととをイメージしているのだそう。

楓人君の作品。タコが一番古く、小学校1年生の時のかか(母)への誕生日プレゼント。手前のマトリョーシカは、とと(父)へのプレゼイント。ととをイメージしているのだそう。

楓人君がある日突然作り始めた練り消しゴムの怪獣。関節部分にはブロックが使用されている。練り消しゴムは再利用可能なので、毎回潰してまた新たな作品に使うのだそう。

 

 アラキ邸には、あちらこちらに楓人君の作品が飾られている。
 「これらの作品は、100%楓人によるものばかりではなく、中には夫や私が手伝ったものもあります。また、楓人の作品なら何でも飾るという訳でもありません。明らかにやる気がなく、とりあえず作ったと分かるものは、容赦無く捨てています。
 ワークショップで出会う子ども達の中にも、作業だけが面白くて作り上げることを忘れる子がいます。例えば、パン生地をこねることだけに終始して、パンに至らないとか。そんな場合は叱ります。たとえ失敗でも、最後まで作り上げないと、ものづくりとは言えず、実のある体験にはならないので。
 このように、脱線しがちな子をうまく導いたり、子どもには物理的に困難なことを手伝ったり、どうすればできるか悩んでいる子にヒントを授けたりすることは、体験を充実させるためのコツ。逆に、それ以上は口も手も挟まないこともコツですね。他に、こんな口の挟み方もありますよ。
 ある時、楓人が紙に怪獣の絵を書き散らかしていたので、1冊のノートにまとめることを提案しました。そうしてできた楓人の『怪獣図鑑』は今でも続いています。

楓人君オリジナ ルの怪獣がならぶ怪獣図鑑。

小学生になった年から1年に1冊のペースで書き続けている楓人君のカルタブック。6年生の今年 は、ことわざカルタを制作中。

ミカさんのイベント出店に合わせて、楓人君が作った刺繍のブローチ。販売当日も楓人君が店頭に立ち、接客したのだそう。

家族3人で同じスナック菓子をスケッチ。左からミカさん、楓人君、ご主人。

 

 また、小学校に上がった頃、ひらがなを覚えさせようと、あいうえおカルタを作らせ、絵を添えて一冊のノートに仕上げさせました。その作業は毎年恒例となっていて、6年生の今年は、オリジナルのことわざカルタへと進化しています。
 このように放っておくとただの落書きでしかないものも、形にして残すと、面白くなって、自発的に次はどうしようかと考え始めたりするんですよね」。
 考える力に、国語、算数、美術などの垣根はない。どんなアプローチで身についたことであれ、自発的に考えられる力は、生きる力へとつながるのではないだろうか。

料理創作ユニットGomaとは…

アラキミカ、中村亮子からなる料理創作ユニット。「食」を テーマにジャンルや物事にとらわれない自由で新しい創作活動を目指し、フード提案から雑貨のデザイン&製作、イラストまで全て自分たちでこなす。現在は雑誌、単行本、webなどの媒体での作品発表、広告ビジュアルの製作から国内外でのものづくりワークショップ開催など多彩なフィールドで活動中。『幼稚園』(小学館 刊)にて『Gomaとつくろう!おいしいてあそびおやつ』連載中。著書多数。

BOOK INFO Gomaの本

『へんてこパンやさん』 (株) フレーベル館 1,300円(税別) キツネとネズミのパン屋さんのお 話。巻末にへんてこパンレシピ付き。 シリーズに「おばけカレー」 「チョコるあが」「しましまジャム」がある。

『Gomaのゆかいなこども雑貨』 文化出版局 1,300円(税別) 通園グッズから、 日常で使うベビー &キッズ小物まで、本当に使える子 ども雑貨を新しいセンスや感覚で 提案している本格手芸本。


【多様性が子どもを育む】
~象設計集団を訪ねて~

茨城県鹿嶋市の住宅街にある『美空保育園』。自生していた木をできるだけ残し、自然の多様性を生かす よう設計されている。母屋とは別に、離れを作ることで、子ども達が往来する動線が生まれている。

 
 次に訪れたのは、『か木くけ子どもの家』という展覧会の会場だ。主催している象設計集団は、ユニークな保育園や幼稚園を多数手がけており、この会場ではそれらが紹介されている。取材の前に、展示されている園舎の写真を眺めていると、不思議と懐かしい気持ちになった。その理由は、象設計集団の代表で建築家の関さんにお話を聞く中で、徐々にはっきりと見えてきた。
 「園舎を設計するに当たっては、自然と屋外へつながる動線を大切にしています。というのも、外には無数の体験や発見があるから。砂、石、木、虫、光、風、におい、チクチク、ドロドロ、ワシャワシャ…自然の中には、身体感覚的や感性を刺激し育むものがたくさんあって、全てが好奇心の対象になります。いわば、子どもが育つために必要なものの宝庫なんですよ。なのに、昔はどこにでもあったこの環境が、今やなかなか体験できないことになっています。田舎ですら、テレビやゲームなど屋内に楽しいものがあったら、子どもは外に出ませんから」。
 子どもは、さまざまなものに出会い、見たり触れたりすることで、人として必要な感覚や感性、創造力を育む。その点において、多様性に富んだ外での遊びは、欠かせないことのひとつのようだ。

離れ「もりのへや」は、建物というより大きな遊具のよう。屋上の床には窓があり、室内を上 から覗けたり、室内も入り組んでいて、死角や陰がたくさんある。まるで森の秘密基地だ。

屋内の多様性と居場所

 自然環境から受ける多様な刺激が、子ども達が生きるために必要な力を育むことは分かった。では、屋内ではどのような要素が子ども達の成長に役立つのだろう。
 「屋内においても、子ども達の感覚や感性が刺激され、おもしろがれるようにと考えています。
 例えば木の床。木目や節は子ども達の想像力を掻き立てます。顔に見えたり、迷路にして遊んだり。また、床板を固定せずにおくと、カタカタと音を鳴らして遊んでくれたり、素足で足裏の感覚を楽しんでいる子もいますね。柱用に木を切り出す時は、枝を少し残しておくと、木登りが始まります」。

鹿児島県屋久島町にある『あゆみ森のこども園』。床から壁や棚にいたるまで、地元でとれる杉が贅沢に使われている。ジャングルジムのような棚は、子どもでなくとも、遊びたくなる。

 
 あらためて見ると、どの園にも木がふんだんに使われており、逆に一般的な園によく見られる、カラフルなマットやボックスなどは見当たらない。
 さらに、作品の共通点といえば、段差や陰が多く、開放感はあるが、スッキリとした空間とは言い難い点だ。「従来の保育園といえば白い壁の四角い部屋で、壁面に棚が並んでいる教室のような部屋が多かったと思うのですが、そういう空間は本来落ち着かないものです。
 こちらは岐阜にある美濃保育園ですが、男の子が木の柱にもたれかかっていますよね。おそらく、落ち着くのでしょう。大人でも何もないただ広いだけの空間に放り出されると、不安になりますよね。狭いところ、暗いところ、段差などは、子ども達に安心できる居場所を作ってくれます。

囲い『うらら保育園』の板の 間にある『電車コーナ ー』。安心してヒソヒソ話 に花が咲きそうだ。

岐阜県美濃市『美濃保育園』のシンボルツリー『おばけの 木』にもたれかかる男の子。

 
 また、あゆみの森こども園のジャングルジムのような棚は、本来おもちゃを片付けるための棚なのですが、子ども達の隠れ家にもなっています。潜ったり、隠れたり、もちろん上る子もいて危ないかもしれませんが、自分で上ることができる子は、自力で下りれるものですし、落ちても大丈夫な程度に設計されています。段差も同様に、身体の感覚や感性を育んだり、拠り所になるなど、さまざまな役割を果たしています」。自身の子どもの頃を思い返すと、確かに隙間に挟まってみたり、下に潜ってみたり…。漠然とだが、子ども達の気持ちがわかる気がする。

茨城県鹿嶋市『美空保育園』の離れ『もりの部屋』の内部。印象的な段差の向こう(写真手前)は外へとつながっている。

『おばけの木』は、山から切り出す時に枝を少し残したおかげで、子ども達がこぞって登る人気の柱となっている。

『あゆみ森のこども園』の床は季節 による伸縮を考えた落とし込み。固定されていないので、揺さぶるとカタカタと音がなる。

大家族と日本の暮らし

 象設計集団の作品を眺めながら感じたいわれのない懐かしさの一番の理由は、ここに起因している。
 「働くお母さんが増え、昼間の大部分を保育園で過ごす子どもが増えました。昔なら、家でお母さんと過ごしていた時間を、保育園で過ごすようになったのです。つまり、保育士はお父さんお母さん、お友達は兄弟姉妹、保育園は施設ではなく、家なのです。

東京都葛飾区にある『うらら保育園』の昼食の様子。ちゃぶ台に正座、ごはんに味噌汁の昔ながらの食事風景だ。 

 
 上の写真は、東京葛飾区にある『うらら保育園』のお昼ご飯の風景です。楽しそうでしょう?『みんなで食べると楽しい』ということを体験しています。大家族ですから、人とのつながり方も身につくでしょう。他にも、お茶碗にご飯を盛ること、お皿を運ぶこと、片付けることなど、生活する力をここで身につけているのです。
 また、この保育園では、ちゃぶ台や縁側、鴨居に畳、襖で仕切る田の字の間取りなど、昔ながらの日本の暮らしを取り入れています。主な目的は、葛飾区という下町の地元文化を感じて欲しいということですが、それ以上に日本の生活文化が教えてくれることは多いと思います。
 日本家屋には、紙や土、布など、繊細で美しいものがたくさんあります。子どもだからと、プラスチックの茶碗は使わせません。落とせば割れる陶器の茶碗を使います。
 つまり、子ども達は、ここでの暮らしを通して、ものを大切に扱う心や所作を覚え、豊かな日本文化に触れる中で、情緒を育むことができているのです。
 それに、日本家屋は合理的で便利ですよね。襖を閉めれば小部屋、開けば大広間、ちゃぶ台を出せばダイニング、布団を敷けば寝室。このように無駄のない柔軟さも、子ども達に知恵を授けてくれていると思います。そしてきっと、日本文化の魅力を次世代に伝えてくれることでしょう」。
 戦後、多くの日本人が放棄した日本の昔ながらの暮らしの中には、たくさんの豊かな知恵が詰まっていて、当時の子ども達は、その中で育つことで、さまざまなことを身につけていた。
 多様性に富んだ自然環境や昔ながらの暮らしなど、失いつつあるものの中にこそ、子どもが伸びる要素が詰まっているということだ。

しゃもじを使って陶器の茶碗に自分でご飯を盛ることも、子ど もにとっては学びのひとつ。 

ちゃぶ台によってダイニングと化していた板の間が、読み聞かせの広場に。小上がりは子ども達にはぴったりのベンチだ。

先ほどまで子ども達が走り 回っていた部屋が一変、寝室に早変わり。

地域とつながること

 戦後、日本人が、昔ながらの暮らしの豊かさを見逃してきたように、最も身近なはずの地元の魅力にも気づいていないことが多い。そこで、象設計事務所では、園舎を作るにあたって地場産業を取り入れ、材料も地元から調達するよう心がけている。
 「子どもの頃の記憶は、想像以上に残っていて、それが心地よかったり、楽しかったりすれば、自然と回帰するものです。だから、子ども達には、暮らしの中で地元文化に触れて、その魅力を感じてほしいと思っています。
 例えば、山形県の『認定こども園めごたま』の園舎の前には田んぼが広がっていて、子ども達は地元の農家さん、時には保護者も一緒になって稲作を体験しています。
 岐阜の 『美濃保育園』では、園舎の建築のために、地元の山から木を切り出すにあたって、子ども達も伐採に立ち会いました。それらが柱や床材に生まれ変わったことを知った上で、日々足裏に木の温もりを感じたり、柱に登ったり抱きついたりしています。
 また、地場産業を取り入れることで、地元の人々とつながることもできます。田んぼでは、地元の農家さんが子ども達と農作業をしながら交流したり、木こりのおじさん達とも仲良くなったり。
 昔なら当然のようにあった地元の人たちと助け合える環境づくりにも役立ってくれたらと願っています」。これもまた、戦後の核家族化によって失われたものだ。
 近年、日本文化は海外からの評価を受け、改めてその魅力を知らされることが多い。それについては、誇らしい反面、恥ずかしいこととも言える。
 自然も文化も、助け合える環境も、できれば自分たちの手で子ども達に伝えていきたいものだ。

『美濃保育園』の園舎に使うヒノキを切り出す、地元の林業従事 者と子ども達。

地元の木材が活かされた『美濃保育園』。子ども達は裸足で駆けまわったり登ったりしながら、木のぬくもりや 気持ち良さを体感している。

象設計集団の園舎には
子どもの居場所づくりのヒントがいっぱい

子どもはママやパパの見守る中でこそ安心してのびのびと過ごせる。その 一方で、宝物を隠すようにコソコソしたいのも事実。 しかしそれは、子ども部屋が欲しいということでもないようだ。具体的なヒントが 詰まった象設計集団のアイデアに学ぼう。

小上がり 『あゆみの森こども園』の一角。 床を一段上げ、両脇に棚を設 置することで、ゆるやかに空間 が仕切られ程よいこもり感があ る。子ども達にとって安心できる 居場所だ。

段差『美空保育園』の離れ『もりの へや』の階段は、イスになったり 机になったり、時には読み聞か せをする保育士さんのステージ にもなる。

穴ぐら 東京都世田谷区にある『喜多 見バオバブ保育園』の階段下 の小さなスペースは、子ども達 が大好きな場所。

宝物入れ『あゆみの森こども園』のモッチョム の引き出し。子ども達が拾ってきた 木の実や泥団子など、大切なもの をしまう引き出し。

BOOK INFO

11の子どもの家
象の保育園・幼稚園・こども園
編集:象設計集団 発行:株式会社新評社

 ここでご紹介した園舎をはじめ、象設計集団が生み出した全国11の保育園・幼稚園・こども園を紹介しています。設計者として大切にしたこと、作りながら学んだこと並びに、保育者(園長や保育士)の園舎に対する考えや、子育てについて大人がどうあるべきかなどが綴られています。建築や保育の専門家でなくとも、読みやすく学びの多い一冊です。


取材協力

象設計集団 URL http://zoz.co.jp mail atelierzo@zoz.co.jp
北海道十勝、東京、台湾の3カ所を拠点に活動している設計事務所。保育園・幼稚園のほか老人ホームや公民館、美術館 や庁舎や公園などを中心に、地域の個性を活かしながら、感情や感覚に訴える有機的な空間づくりを展開している。
主な受賞歴:芸術選奨文部大臣新人賞(美術部門)/今帰仁中央公民館   日本建築学会賞/名護市庁舎 公共建築賞優秀賞/矢野南小学校