つちかわれる、モノ・暮らし

「No.42」

家族と過ごす時間にやさしく寄り添う名作椅子

日々の暮らしを共にする道具や器、家具。モノにあふれている時代だからこそ、
思いを込めて丁寧につくられたモノを選びたい。
第1回は美しいデザインと座り心地で人々を魅了するデンマーク生まれの椅子「No.42」を求めて徳島県へ。
時代を超えて新たな息吹を吹き込み復刻させた、宮崎椅子製作所の社長・宮崎勝弘さんに
「No.42」の魅力やものづくりへの思いを聞いた。

世界で唯一認められた
「 No. 42 」の製作

 北欧ヴィンテージ家具の中で高い人気を誇るダイニングチェア「No.42」。エッジの効いたハーフアームから、脚先に至るまで凛とした美しさを持つ、デンマークの家具デザイナー、カイ・クリスチャンセン氏の代表作だ。1956年にオリジナルが発表され、当時主にヨーロッパ市場に向けて市販されていたが、製造の難しさから本国デンマークでは製造中止となっていた。その椅子を蘇らせたのが宮崎椅子製作所。カイ氏から正式に製造が許され、世界で唯一ライセンス生産をしている。 宮崎椅子製作所のある徳島県は女性が嫁ぎ先に持参する嫁入り道具の一つ、鏡台の産地として知られている。明治初期に阿波藩の船大工だった職人達が家具製造をはじめ、関西地区で鏡台が人気を博したのを機に「阿波鏡台」の名は全国へと広まった。1969年創業の宮崎椅子製作所もかつて鏡台とセットになるスツールや椅子の製造を下請けで行なっていた。
 2代目社長の宮崎勝弘さんは38歳のときに事業を承継し、デザイナーとの出会いをきっかけにオリジナル椅子をつくる方向へと転換。無垢材にこだわり、自社でワークショップと呼ぶデザイナーと工房で一緒につくりあげる方法でオリジナル椅子を製作している。
 「下請けに求められるのはいかに安く忠実に作れるか、ということ。自分が納得のいくものづくりをしたいと思い、オリジナルをつくることを決断しました」。

「デザイナーに工場へ来てもらい、一緒に手を動かしながら、座り心地や手触りをつくっていくのが楽しい」と宮崎椅子製作所・社長の宮崎勝弘さん。

デザイナーも認める
復刻版のクオリティ

 宮崎さんはデザイナーと話し合い、工房で製作を重ねて宮崎椅子製作所オリジナル第1号の椅子を2001年に完成させた。毎年新作を発表し、これまでに約80種類もの椅子を製造開発。その内16脚が公益財団法人日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞(通称「Gマーク」)を受賞している。中でも2008年に発表した「No.42」は、宮崎椅子製作所の技術力の高さを物語る代表作の一つだ。
 復刻版をつくるきっかけは、ヴィンテージの「No.42」を取り扱うインテリアショップからの提案だった。つくる難しさはもちろん分かっていたが、デザイナーのカイ氏が今も健在だと聞き、一緒につくりたいという思いが湧き上がってきたという宮崎さん。すぐにデンマークの自宅を訪ね、自身の椅子づくりへのこだわりや思いを伝えた。そして、彼のデザインに対する思いにも耳を傾けた。
 「カイ氏は『No.42』が復刻されることを大変よろこんでくれ、その場で正式契約を結びました。それを機にカイ氏との交流がはじまり、徳島の工房にもワークショップのためにこれまで何度も訪れてくれました。製作する工程を見て品質に満足していると言ってもらえたのが一番うれしかった」と宮崎さん。復刻版「No.42」はデザイナー自身が品質に太鼓判を押すクオリティを誇っている。

下へ向かって細くなる後脚。何気ないところまで細かくデザインされている。

オンリーワンの
ものづくり

 宮崎椅子製作所は木取りから木材加工、研磨・組立、布張りまで、椅子づくりのほぼすべての工程を自社で行う。パーツの加工は機械で、美しい椅子に仕上げるための接合部分の研磨や布張りは一つひとつ手仕事で完成させる。

工房内にあるさまざまな木材を補完する倉庫。すべての椅子が一枚の木材からそれぞれのパーツに最適な木取りをし、加工してパーツを削りだす。

宮崎椅子製作所の高い技術力の一つが機械のプログラミング。

何度もパーツを削り出し、微調整をしながらなめらかな後脚の太い部分と細い部分を表現する。

「No.42」のデザインのポイントになるハーフアーム。肘掛としての機能を発揮しながら、テーブルに着いてからの移動のしやすさも実現した。職人が見た瞬間に難しい仕事をしていると感じる要素が詰まっている。

座面に張る革や生地は1枚ずつ裁断する。お客さんの中にはお気に入りの生地を持ち込む人も。 

シワがでないよう1枚ずつ座面に布張りをしていく。

若い職人が多い工房。先輩に相談しながら一つひとつの工程に愛を込めて製作する。

それぞれのパーツを接合したら、接合部を滑らかにし、座面に布張りをして最後に組み合わせる。

「No.42」を復刻する上で一番苦労したのはアームと脚をつなぐ接合部分だった。どちらも強度を持たせながら曲線と曲線の接続面に隙間がないようにするのは容易ではない。

下へ向かって細くなる後脚。何気ないところまで細かくデザインされている。

ハーフアームを上から見ると、表面がなだらかに湾曲しているのが分かる。

 「同じ種類の木でも状態は異なるので、機械で削っても接合部分の調整は人の手でなければできません。手間はかかりますが見た目の柔らかさや、やさしさを表現するための重要な工程です」。
 生産性を上げるために効率を求める時代の流れとは相反する現場。注文から2〜3ヵ月の月日を要するのも当然だ。

圧倒的な座り心地と
空間を活かす機能性

この椅子の魅力の一つがわずかにリクライニングする背もたれだ。

前後に稼働する背もたれは「No.42」の特徴。

 それ故に故障が生じやすいことを知った宮崎さんは、劣化する内部の木のパーツを金属プレートで補強。安定した動きを実現した。このわずかに動く背もたれの構造が背中にフィットし快適な座り心地を生む。復刻版「No.42」はデザインを再現するだけでなく、強度も進化させているのだ。また一見短いと感じられるハーフアームは、着座すると肘を置くのに丁度良い位置であることが分かる。アームが短いためダイニングテーブルにすっきりと収まり、狭いダイニングスペースの悩み解消にも一役買う。
 「カイ氏は使う人のシーンや動きを考えてデザインしています。姿形全てに根拠があり、計算し尽くされている」と宮崎さんは語る。
 食事の時間を多くとり、会話を楽しむ北欧のスタイルの中で考えられた「No.42」。時代と国境を超え、永年愛され続けたこの椅子の座り心地は、日本の食卓にやさしく寄り添い安らぎ与えてくれる。

前から見ると後脚が内側に入っているのがよくわかる。どの角度から見てもNo.42のデザインには美しい要素が隠れている。

一目みて印象に残る横からのアームライン。

エッジの効いたハーフアーム。肘をおいた時に優しくフィットする。

座面と脚の接合は作り手として難易度の高い部分。

木材は8種類から好きなものをチョイスできる。

「No.42」は座面に貼るファブリック60種類

取材協力:宮崎椅子製作所 
TEL.088-641-2185
徳島県鳴門市大麻町川崎字中筋710 
URL/http://www.miyazakiisu.co.jp