つちかわれる、モノ・暮らし

「コーヒースタンド」

伝統技術に新しい息吹をもたらす木の魅力を伝える
コーヒースタンド

日々の暮らしを共にする道具や器、家具。
モノにあふれている時代だからこそ、暮らしに寄り添う丁寧につくられたモノを選びたい。
今回は伝統技術「曲物」を使ったコーヒースタンドをつくる黒田工房を訪ねて滋賀県大津市へ。
シンプルなデザインの中には日本古来の木工技術が用いられ、伝統技術を伝えたいつくり手の熱い思いが込められていた。

コーヒースタンドはマグカップに直接ドリップできる仕様。 ナラ材の風合いが温かなコーヒータイムを演出する。

国宝・重文の修復に
携わる木工工房

 森林が多い環境と、長い歴史に育まれてきた日本独自の木工技術、指物(さしもの)、曲物(まげもの)。指物は板と板、棒と棒、板と棒を、釘を使わずに木を加工して接合させる家具や器具の総称、またはその技法のこと。伝統的な指物としては京都の京指物、東京の江戸指物、大阪の大阪唐木指物が有名だ。
平安時代の貴族文化に起源を持つ京指物は、室町時代以降、専門とする職人・指物師が現れ、その後茶道文化と共に発展し、茶道具や高級和家具などの調度品にその技術が使われている。
 今回取材に訪れたのは、黒田栄治郎氏が指物建具工房として1961年創業した黒田工房。伝統木工技術の歴史の中では非常に若い工房だ。現在は3代目の臼井浩明さんに代替わりし、その指物の技術を継承しながら、曲物、組子(くみこ)、寄木(よせぎ)、といった本来それぞれ別の伝統技術も統合して、高い技術を活かした仕事で日本の伝統技術を今に伝える。

「黒田工房の強みは引き出しの多さ。指物、曲物、組子、寄木、各分野のプロフェッショナルはいますが、合わせ技をできる人はあまりいない」と臼井さん。黒田工房は建具を製造する高い技術が認められ、先代から国宝や重要文化財の襖や屏風などの障壁画の木製下地、縁の作製を行なっている。修復は1厘(約0.3ミリ)の誤差も許されず、一度手がけた仕事は100年持つことを前提に行われるという。木工の伝統技術に用いられる代表的な技術は、指物、組子、曲物、寄木など。組子は組子細工とも呼ばれ、小さく切り出した木片を、釘を使わずに組み合わせて美しい幾何学模様を描く。どれも正確な設計と熟練の技が必要な伝統技術だ。黒田工房はそれぞれに独立した伝統技術を組み合わせて修復する、新しいスタイルを確立した工房なのだ。

受け継ぐ技術から
生まれる新しいモノ

 臼井さんの代に替わり、はじめたのが、伝統技術を用いた新たなものづくり。修復のみを専門で行なっていたが、長く使えるものを生み出せる伝統技術を今のライフスタイルに合ったものづくりに採用すれば、伝統技術が身近なものとして生活の中に存在できる。そして、つくるのであれば、デザインにもとことんこだわりたい。そう考えた臼井さんは、建築デザインにも見識が深いミラノ在住の日本人デザイナー後藤司さんとタッグを組み、ものづくりをはじめた。

弟子の崔錬秀さんと修復の仕事を手がけながら、京指物の可能性を探る日々を送る。

弟子の崔錬秀さんと修復の仕事を手がけながら、京指物の可能性を探る日々を送る。

写真は手作りのミニカンナ。50種類以上のカンナを使い分け、繊細な仕事を実現する。

「後藤さんからデザイン案が届いたときは衝撃的でしたね。建築的な形や曲線の使い方は、木工をやっている人間には考えつかないアプローチでした。どうやって実現しようか、と思いましたね。でもできないとは言いたくない。考えれば考えるほど燃えてきました」と臼井さん。提案されたデザインはまるで円形の塔のようなサイドテーブル。後藤さんならではの美しいラインが際立つデザインを実現するために、技術的な提案とデザインのすり合わせを重ね、側面に組子を、天板に寄木を使ったサイドテーブル「シュシュ」を完成させた。この作品は2016年4月にイタリア・ミラノで行われた世界最大規模のデザインイベント「ミラノ・デザイン・ウィーク」で展示され、細部に至る細い仕事が海外でも高く評価された。組子で円形に木を組み立てることは難しいため、最初に12角形の木の枠をつくり、枠の内側を削ってなめらかな円形の枠に仕上げていく。12個ある継ぎ目には接合部分の内側に溝を切り、その溝に合わせた板を差し込み接合する、「雇(やと)いざね」という方法が採用されている。ラインが細く繊細に見えるが、人が座ってもいいぐらいの強度に保たれているのは「雇いざね」、「ホゾ組」のおかげだという。木の性質上、湿度によって多少変形するものだが、日本に比べて湿度の低いミラノの環境で展示をしても、美しい形が保たれていたのは臼井さんの細やかな仕事の賜物。もちろん金物は全く使われていない。最初のコラボ商品にして美しいデザインと臼井さんの高い技術が活きる傑作が誕生した。

デザイナー後藤さんとつくったサイドテーブル「シュシュ」。

サイトテーブルに用いた雇(やと)いざねの構図。

一枚板で曲線を描く
コーヒースタンド

コーヒースタンドのスリットは1ミリだけ切らない部分を残し機械で均等に入れる。

 臼井さんは京指物の周知や技術向上を目的として結成された「京都木工芸共同組合青年部」に所属する。その組合の活動の一貫として青年部のブランドプロダクトをつくることになり、臼井さんが考案したのが伝統技術・曲物を使ったナラ材のコーヒースタンドだ。
 「デザイナーと一緒に仕事をした経験があったからこそ生まれたデザインです。普通にコの字型にしても面白くないのでスリットがデザインのポイントになるよう伝統技術を取り入れ、どんな空間にも馴染むようシンプルに仕上げました」。

一枚板の状態のコーヒースタンド。

アイロンのスチーマーを使い、木の状態や湿度を見極めながら、熱を加える時間を微妙に変えている。

熱を加えてすぐに曲げていく。一枚板が曲がる様子はまるで魔法を見ているかのような不思議な感覚。

軽く力を入れるとスッと曲がっていく。スリット部分を接着剤で固定すればコーヒースタンドの完成。

 曲物は曲げわっぱにも使われる技法で、木材を薄い板状にし、熱を加えて曲げるという方法。コーヒースタンドは曲げるため内側にスリットを均等の幅に入れ、1枚の板で美しい曲線を描く。これは粘り気のあるナラ材だからこそできる技。木が薄いと折れたり、厚いと曲がらなかったりするため、厚みやスリットの幅は計算し尽くされている。
 昔は身近だった曲物の器も、今ではほとんどの家で見かけることはない。だからこそ、好みのコーヒーを淹れて、香りを楽しみながらゆっくりと味わう時間に寄り添うコーヒースタンドの存在は、日本の木工技術の素晴らしさを伝えるモノとして、またおしゃれなインテリアとして活躍するのだろう。

コーヒースタンドサイズ(mm):上底110×底辺140×幅118×高さ140/素材:ナラ材 価格:4,800円(税別)

スリットの隙間を感じさせないなめらかな仕上がり。

曲げる角度に合わせてスリットの数を調整している。

取材協力:黒田工房
TEL.077-575-7433
滋賀県大津市伊香立北在地町620-4
URL/http://www.kurodakobo.com