巻頭特集

好きこそスタイル

 みなさんは、「あなたのスタイルを教えてください」と聞かれたら、どう答えるだろう。体型のことだろうか?ファッションだろうか?または、生き方のことだろうか?このように、スタイルという言葉は、さまざまな解釈が可能だ。
 しかしながら、いずれの解釈にも共通して言えることがある。それは、あなたのスタイルはあなた自身だということ。例えば、ファッションのことだと解釈し、「特にスタイルはない」と答えたところで、スタイルを持たないことがあなたのスタイルになってしまうし、流行にのっているだけだとしても、それがあなたの意思ならそれもあなたのスタイルだ。つまり、誰にでもスタイルはある。
 今回のテーマは『好きこそスタイル』。誰にでもあるスタイルだが、それが色濃く感じられる人は、自分が好きなものをよく知っていて、自由に表現している人。そんな方々に話を聞いた。

【町工場を刷新 生彩に包まれた家】

 玄関を入った瞬間に、心地良いと感じた。空間を埋め尽くさんばかりの緑が目に飛び込んでくる。この心地良さは、この緑による視覚効果なのだろうか?

Photo:Kenichi Aikawa

 しばらくして、それが何なのか分かった。湿度だ。しっとりとした空気が心地よく、これだけ植物があるのだから、酸素も濃いのかもしれない。いずれにしても、これを息吹きと呼ぶのだろう。自然とは程遠いこの東京の下町で息吹きを感じるとは、たとえ鉢植えでも植物の放つ生彩には驚かされる。
 さらにギーギーと野生を感じる鳥の声が響いた。見渡すと、大きめのインコが4羽、円らな瞳でこちらの様子をうかがっている。
 この空間をイメージで言うなら、坪庭ならぬ、坪ジャングルと言ったところだろうか。たくさんの観葉植物たち、色鮮やかなインコとその鳴き声、熱帯魚まで泳いでいる。この普通じゃないが、妙に心地良い空間について、家主でグリーンプランナーの星野さんにうかがった。

始まりはステンレス

 グリーンプランナーとは、緑を使ってオブジェを創作したり、空間や庭をデザインしたりする職業。壁やフレームに、木や苔、植物をレイアウトする『グリーンウォール』は、今でこそ広く知られているが、星野さんが始めた10年ほど前は、かなり珍しがられたそう。
 渡された名刺が、植物からは縁遠いシルバーの光沢を放っていたので、不思議に思い、尋ねてみた。

ステンレスの葉は、板金工の手仕事から生まれる。

 
 「これはステンレスをイメージした色です。実家がステンレス工場を営んでいたこともあり、私はステンレスが大好きで、同じく大好きな緑とコラボさせたのが創作の始まりです。プランターをステンレスでデザインしてみたり、つわぶきやモンステラの葉を板金で再現してみたり」。
 葉っぱをステンレスで作ってしまうとは、かなり大胆な発想だ。そして、この奔放さこそ星野さんらしさであり、この家からも随所に感じられる。

自ずと生まれるスタイル

 星野さんがこの家をリノベーションしたのは、約2年半前のこと。かなり老朽化していた2階建の町工場を、大胆なアイデアと緑で、快適な住空間とアトリエに変身させた。

2階は住空間兼、打ち合わせスペースとなっている。たくさんの観葉植物が置かれているが、雑然とすることはなく、意外に明るく開放感もある。大量の観葉植物を置く場合は、高さを違えて視界が詰まらないように配置。また、鬱蒼とした印象にならないように、床面や天井の見通しをも計算されている。小さな鉢を床に並べてしまうと、床面の見通しが悪くなるので注意。棚や台を活用するのもおすすめ。
Photo:howzlife / Kenichi Aikawa

グリーンウォールには、フェイクの植物も使われている。

以前は紙の型押し工場だった1階はアトリエに。

 
 「細かく仕切られた空間は苦手だったので、できる限り壁は取り払いました。昔の面影が残るのは、柱と外壁くらいでしょうか。飼っているインコには温度管理が必要なので、止むを得ず仕切りましたが、圧迫感が出ないよう、ガラスの引き戸を使いました。
 こうして改めて自分のスタイルについて尋ねられると、好みが再認識されますね。緑とステンレスはもちろん、ガラスとアイアン、そして古いものを好んで使っています。逆に柄ものは苦手。
 好きなものには共通点があるので、無造作に並べているだけでも空間にまとまりが出て、それをスタイルと言うのでしょうか。
 実は、並んでいる植物は、調子が悪くなってお客様から戻ってきたり、新しい品種を勉強するために育てていたり、無計画に溜まっていったもので、意図したものではないんです。でも、緑はアラを隠してくれるし、空間を調和してくるので、おかげでうまくまとまったのかも」。
 確かに、植物の数は異常なまでに多いが、動線と視界が確保されているので閉塞感はなく、無造作な配置が、森やジャングルなどを想起させ、ナチュラルな印象を漂わせている。
 また、星野さんが好きな『ガラス』と『アイアン』でできたシャビーな『シャンデリア』や『アイアンフェンス』が、本来昭和レトロなこの空間に、少しボヘミアンな抜け感を生み出している。
 『ナチュラル』と『ボヘミアンな抜け感』。これらは、星野さんが作る『グリーンウォール』からも感じられる。

キッチンからダイニングを見た様子。アイアンフェンスが緩やかに空間を仕切っている。S字フックなどを使えば、いろいろなものを掛けられるので、オリジナルのアレンジを楽しむことができる。
Photo:howzlife

シンプルであること

 星野さんがモノと向き合う姿勢は、実に奔放だ。その感性は、この家からも垣間見られる。
 例えば、浴室にはラン科の植物がたくさん吊り下げられている。「湿度が高くて丁度いいから」というまっすぐな発想だ。鳥かごのようなランタンは、「見た目は好きだけどランタンとしては使わないなぁ」と逆さにして鉢カバーに。友人が店をたたむ時に売れ残ったアジアン雑貨のタペストリーハンガーは、「タペストリーは掛けないけど、見た目もキレイで丈夫そうだから」と、防犯を兼ねて玄関ドアのガラス部分の補強に。いずれも、モノについて、用意された使い道に囚われることなく、本質を見て役割を見出している。非常に『シンプル』な思考だが、なかなかできることではない。

本来、ランタン(左)として販売されているカゴを鉢カバー(右)として使用。

アジアン雑貨のタペストリーハンガーをドアのガラス部の補強に。

リビングとダイニングにはガラスとアイアンでできたシャンデリアが。 Photo:howzlife

バスルームは程よい湿度が保て、ラン科の植物には最適。また、寂しいユニットバスに彩を添えてくれる。

 
 最近、メディアでは『シンプル』という言葉がよく使われる。一般的には、モノが少なく、形にも無駄がなく、色数も少ない、そんなモノや部屋、暮らしを意味しているのだろう。しかし、星野さんの暮らしもまた『シンプル』と言える。なぜなら、何事も既成概念に囚われず、まっすぐに本質を見ているから。また、好きなものが明確で、基本的にそれらしか取り入れないので、暮らしに無駄がないからだ。
 『スタイル』と聞くと、空間のテイストを想像しがちだが、星野さんの『スタイル』をあえて言葉にするなら、その思考・姿勢を表現した『シンプル』がしっくりくるように思う。

インコ達の温度調整のために仕切られた唯一の部屋。

時折リビングでインコ達を放し、共に過ごす。

キッチンも例外ではなく、緑に覆われている。

取材協力:グリーンプランナー 星野ひろみ さん
「STEOR(ステア)」代表。大学で建築を学び、その後、植物の世界へ。グリーンを使ったアートや、店舗・住宅・庭などの空間デザインを手がける。人や場所に合わせて提案してくれるので、手入れや虫が苦手な人、陽が届かない場所などでも、ぴったりのグリーンが見つかると人気。アート作品は、百貨店のポップアップストアやセレクトショップなどでも購入できる。詳しくはホームページからhttps://steor.com/

Photo:Kenichi Aikawa

【趣味と暮らす家】

 東京住まいでなくとも聞き覚えのある駅「表参道」「渋谷」「恵比寿」。そのどこからも歩ける場所に大山邸はある。築35年と言うから、日本がモノの豊かさや付加価値を謳歌していた時代に建てられたマンションだ。大山さんが、そこをリノベーションし、住み始めたのは約4年前だそう。息子の空君が小学校に上がり、大山さんが大手広告代理店を辞めて独立したタイミングだった。これから始まる新たな環境に合わせて、暮らしやすいよう、家も場所も変えたのだ。
 エレベーターを上がり、扉を開けると、そっくりな2つの顔が出迎えてくれた。主の大山さんと空君だ。取材中、二人は常に絡まり合っていて、親子と言うより、兄弟か友達と言った調子だった。だからと言って、大山さんがやたらと無邪気で子どものような訳でもなく、空君が父を軽んじている風でも大人びている訳でもない。むしろ一番あどけない印象を受けたのは、その後出会った奥様だ。常に笑顔で一生懸命、そんな言葉が浮かぶ。この家には大人ぶる大人はおらず、3人が肩を並べて暮らす、今時の家族だった。

好きだからこそ整理する

大山邸の玄関を抜けると、真っ先に目に飛び込んでくるのは、ブランコが揺れる書斎兼遊び場だ。

見せる収納で棚を天井まで貫けば、高さが感じられる。また、従来あった右側の壁を取り払い、廊下を取り入れることで、開放的な印象に。さらに、カーペットをグレーにし、下部に重心を置けば、安定感が生まれ、落ち着いたスペースとなる。

 
 天井まで続く棚には、飛行機やロケット、ロボットにヒーローが我が物顔に並んでいる。「空君の?」と聞くと、「ほとんどお父さんの」とのこと。あまりの要素の多さに落ち着かない気がしたが、眺めているうちに、不思議と引き込まれた。

 書斎兼遊び場に並ぶおもちゃたち。大山さん曰く、テクノロジー系のおもちゃが好きとのことだが、意外に素朴で可愛いものも多い。空君を3Dで描き出したフィギュア(一番右)なども興味深い。

 よく見ると、一つひとつのアイテムがきちんと粒立ちながら、宝探し感もあり、ワクワクさせられる。おそらく、アートディレクターである大山さんのバランス感覚によるものだろうと察し、秘訣についてうかがった。「昔からテクノロジーを感じるおもちゃが好きで、気に入ると、とりあえず買っちゃうんですよ。でも、置きっ放しにはせず、時々、上書きしています。折角、好きなものに囲まれていても、ごちゃついてしまったら、それぞれが見えなくなるので、『ロボットは1体、飛行機も1機、キャラクターは被らないようにする』などとメリハリをつけて、整理しています。尺度は、並べ終えた棚を撮影してどう見えるか、いい写真が撮れるかどうかです。
 でも、どれも好きで買ったモノですから、選択は難しいですよね。だから順位をつけて卒業させていきます。もちろん、その後も大切に保管しておくモノもありますが、基本的には手放しています。今は、便利なフリマアプリがありますから。捨てるわけじゃないし、ちょっと得した気にもなりますし。おかげで、購入する時のハードルも少し下がった気がします」。
 上書きされているのは、並んでいるおもちゃだけではなく、吊り下げられているブランコも3代目だと、空君が教えてくれた。

古くてもいいもの

 大山邸のマンションが建てられた1980年代は、日本の経済安定期。当時の一等地に建てられた物件は、富裕層に向けた質の高いものが多い上、新築に比べると安いので、近年人気が高まっている。実際に大山さんも、ほとんど選択肢のない中で選んだそうだ。
 「初見で、いい素材使ってるなぁと思いました。むしろ、豪華すぎたので、リノベーションする上では、引き算をしていきました。部分的に躯体のコンクリートをむき出しにしたり、ウッド一色だったので黒に塗装したり、玄関からリビングに抜ける廊下の壁を取り払ったり。足したのはキッチンのタイルくらいでしょうか。

ウッドのバランスに注目。従来は、キッチンの吊り戸棚にも同様のウッドが使用されていたが、それを残すとウッド色が濃くなりすぎるので、黒に塗装。その結果、天井のコンクリートとの相性も良くなり、バランスの取れた空間に。

フローリングや、壁面の収納は当時のまま。使用されている木材は、反りも歪みもなく、むしろ、経年により深みを増し、魅力的な表情に。収納も大容量でとても便利だそう。

 古くてもしっかりと作られているものは良いですよね。素材だけでなく、デザインもそう。歴史や古さに価値を感じるという意味ではなく、本質的に完成されているものは、時代を超えて使われています。椅子や照明器具にはそういうモノが多いでしょう?我が家もそれらを愛用しています」。
 すっきりとしたリビング・ダイニングは、使い込まれたウッドとコンクリートが共鳴して独特のクラフト感を生み出し、格好よく落ち着いた空間となっている。

自由な空間づくり

 奥様の言葉を借りると「自由すぎて分からない」、それが夫である大山さんの印象だ。その印象の通り、空間にも自由度の高い仕掛けが多い。
 例えば、天井には、あちらこちらにレールが通っており、照明やオブジェ、ブランコなどが、さまざまな場所に吊り下げられるようになっている。
 また、キッチンカウンターに沿って配置されているテーブルは、3パーツで構成されており、シチュエーションに合わせて組み替えることができる。

空間を自在に楽しむためには、自由度の高い仕掛けが有効。ダイニングテーブルを最初から3パーツで構成しておけば、必要に応じてさまざまな形に組み替えられる。また、天井にレールを設置しておけば、照明器具の移動並びに、アートを吊ったり、遊具を吊ったり、幅広く楽しめる。

 さらに、玄関前にあった部屋の壁を取り払って廊下と一体化させることで、開放的で自在な空間が生まれた。他にも細かい部分ではまだまだある。
 これらの発想は、アートディレクターである大山さんの頭の柔軟さによるものだが、そのアイデアはどこから湧いてくるのだろう。
 「よく、アイデアはどうやって生み出されるのか聞かれますが、私は努力に過ぎないと思っています。常に情報をインプットし、引き出しをたくさん作って、タイミングよく引き出せるようトレーニングしておくことではないでしょうか」。
 最後に奥様に「この家で暮らすようになって変わったことは何ですか」と聞いたたところ、「趣味が充実した」とのことだった。
 『自由』という言葉は、時に『奔放すぎる』というニュアンスで使われるが、決して目的を見失って無茶苦茶することではない。目的を果たすために、既成概念にとらわれないことも『自由』のひとつだ。

相手が躯体なら、ボードアンカーを使ってブランコを吊ることもできる。

奥様大満足のキッチン。ツールはご主人の目利きによるセレクトだそう。

 大山さんの『自由』は、思い描く暮らしを実現するために、古くても良いものは残し、新しくても使わないものは排除する、引き算という『自由』だった。その結果、とても使いやすいキッチンが生まれ、料理好きの奥様の趣味が充実したのだ。また、大山さんは大好きなおもちゃを存分に並べられるようになり、空君ははしゃぎ回れるスペースを得ることができ、三人三様の趣味が充実した。
 テクノロジーを感じるおもちゃが大好きな大山さんは、仕事でも飛行機のブランドデザインや宇宙ロケットのプロジェクトに参加したり、お料理が好きな奥様は、日々美味しいお料理を家族に提供している。趣味を生業にすることが、この家族のスタイルのようだ。

取材協力:アートディレクター 大山よしたか さん
ロンドン芸術大学、早稲田大学芸術学校 インテリア科を卒業。雑誌のカメラマンやデザインを経験後、大手広告代理店のアートディレクターに。飛行機のように大きなものからキッチンツールのように小さなものまで、ブランドからプロダクト・広告にいたるまで、さまざまなデザインを手がけている。

【のんびり昼飲みの家】

 ミュージシャンから芸術家、スポーツ選手や宇宙飛行士にいたるまで、多くの有名人を輩出した街、茅ケ崎。さぞ、賑やかな所だろうと想像して降り立つと、意外にも、駅前にはさほど高いビルもなく、特に海に近い南側は、浜辺へ続く道にパラパラと個人商店が立ち並ぶ、のどかな街だ。和田夫妻が営むカフェ『nokka』は、その道を少し入った静かな住宅街にある。分かれ道の三角地帯に小さな公園のような庭があり、その向こうに大きな窓を開けて建っていた。

ライフワークの場

 夫妻がここに店を出したのは約8年前。結婚前から二人で店を持つことを夢見て、10年近く茅ケ崎で理想の土地を探し続け、やっと見つけた場所だそう。しかし、お店を出すには、あまりにも人通りがない。その訳を妻の紀子さんにうかがうと、
 「まず、店舗以前に住居でもあるので、静かな場所を選びました。それと以前から、女性達がカフェでお茶をする姿を見ながら、のんびりするなら、グラスワインにおつまみでもいいんじゃなかと思っていて、それには、大通りに面した路面店ではなく、こういう場所の方が良いと思ったんです」。
 『のんびり』。まさにこの言葉がこの場所にも、この店にも、そして、このご夫婦にもしっくりとくる。無理をせず、自分たちのサイズやペースで、好きなことや良いと思うものに正直に暮らしているからだ。

 
 店を営業するのは、土曜日の午後だけ。メニューは、買い出しに行った先で見つけた新鮮な食材を見てから決める。料理が大好きな二人は、日頃から、何をどう合わせれば美味しくいただけるかという話で会話が止まらないそうだ。夫婦で同じ趣味を持つことはよくあるが、これほどまでに趣味趣向が同じ方向を向いている夫婦も珍しい。この店は、商売をする場所と言うより、美味しいもので人を喜ばせたいという夫妻共通のライフワークの場なのだ。

のんびりというスタイル

 『のんびり』は、この店や家のインテリアからも見て取れる。程よく力が抜けていて、妙に落ち着く空間となっている。「何よりも優先したのは、光と風です。店は北を向いているのですが、できる限り明るくしたくて、たくさん窓をとりました。住居部分に関しては、南に面していて、大きな開口をとったので、かなり明るいです。あと、インテリアに草花は欠かせませんね。

たくさんの窓から光が注ぎ、ウッドの天井や建具、テーブルや椅子、散りばめられた草花やドライフラワーが、ナチュラルな空間を演出している中、紫のカウンターが異彩を放ち、うまくバランスを崩している。

 基本的にはナチュラルが好きなのですが、ナチュラル過ぎるのも違うような気がして…。アンティークも好きだけど、偏るのは嫌で…。だから、いろいろと混ぜながらバランスをとっています。
 例えば、ナチュラルだけど、紫の壁もある。アンティークもあるけど、新しいものもある。シャープなグラスもあるけど、アルミのやかんもある。
 格好よすぎると、落ち着けませんから、少し生活感があるくらいの方が良いと思っています」。
 カウンターの上には、空き瓶が無造作に並べられている。アンティークのものもあるが、使って空になったオリーブオイルの空き瓶もあるそうだ。そこには、素朴な花や草がさりげなく挿されており、雑誌や食器は、無頓着に積み上げられている。これらの生活感というスパイスが、『のんびり』というスタイルをつくり上げている。

自分たちのサイズとペース

 和田邸は、店舗に居住スペース、庭などを足して約25坪。建築面積にいたっては9坪だそう。

ご主人が会社にいる時以外、夫妻はほとんど二人で過ごしているそう。奥様の定位置は、ベッドルームへあがるステップ。しかし、圧迫感はなく、むしろ、全てに目が行き届き、シンプルな動線で使いやすい空間と言える。

2階の居住スペースは、南面の大開口から降り注ぐ光でとても明るく開放的。ダイニングキッチン、ベッドルーム、ロフトの3層をステップフロアでゆるく仕切り、合理的な居住スペースをつくりだしている。また、あちらこちらに大きなS字フックがかけられており、収納用のカゴや袋がぶら下がっている。これもまた、空間を合理的に使うアイデアのひとつだ。

キッチンには吊り戸棚や食器棚はなく、スケルトンなつくりになっている。

 
 「コストダウンのためでもあったのですが、お店も居住スペースも見せる収納が基本です。でもステップフロアのおかげで、ロフトもあり、隠す収納スペースも十分にあるんですよ。あとは、カゴが大活躍しています。ぽいぽいと放り込めて最高の収納アイテムですよね。

居住スペースの足元の窓から店舗へ光と風を流している。

3脚並んだシンプルな椅子がある種の棚になっており、カゴや寸胴にさまざまなものが分類され収納されている。

 狭いですが、本当に快適です。明るくて開放感があるし、好きな料理は存分に楽しめるし、夫は趣味の庭いじりもできるし、暇さえあれば、二人で店や庭で昼飲みを楽しんでいます」。
 和田邸は、ものにも空間にも無駄がなく、全てがしっかりと役割を果たしている。言い換えれば、自分たちのサイズにぴったりと合っているということ。

1階のトイレは、店舗と家と両方で使っており、営業時間外は、トイレのドアが店舗との仕切りになる。

ベッドルームへのステップは、風と光を通す窓を遮らないよう、跳ね上げることができる。

階段下で靴を脱ぐので、段差を利用して靴箱に。

変形地ならではの隙間には、ご主人のハーブガーデンが。

 また、時間の使い方についてもそうだ。ウィークデーは、隆寿さんは会社員として働き、紀子さんは家でアクセサリーを作り、夜は二人でゆっくりと料理を楽しみ、週末は、お客様をお迎えして喜んでもらう。無理も無駄もなく、自分たちのペースで暮らしている。
 『のんびり』とは、動作が遅いことでも、余裕があることでもない。自分たちのサイズとペースでのびのびと過ごすことであり、空間もそれに合わせて育まれるようだ。

取材協力:cafe nokka 和田隆寿・ 紀子夫妻
ご夫婦が営むカフェ『nokka』の営業時間は、毎週土曜日の13時~21時。紀子さんが作る健康的でおしゃれなお料理と、隆寿さんが作る大人スイーツをつまみに、自然派ワインが楽しめるお店。