The Study

壁紙

History

 壁紙がヨーロッパで一般的に使われるよ うになったのは16世紀頃の話。製紙と印刷 の技術が発達し、比較的安価に生産できる ようになってからのことだ。それ以前にも古 代遺跡に装飾性の高い壁画が残されてい たり、中世ヨーロッパでは、フレスコ画や革、 モザイクタイルなどの工芸品を使って「壁を 飾る」という文化はあったものの、庶民のも のではなかった。
 16世紀頃の日本はと言えば江戸時代。日 本家屋は柱構造なので、壁ではなく建具で 部屋を仕切っていたため、襖や障子、屏風 などが壁紙のような役割を果たしていた。17 世紀にはオランダから革壁(革の壁装飾具) が入ってきたものの、壁を飾る文化のなかっ た日本では「金唐革」と呼ばれ、煙草入れや 刀の鞘などの装飾に使われていたのだそう。
 日本の住宅において広く壁紙が使われる ようになったのは、1960年代のこと。戦後、 暮らしの欧米化に伴って普及した。東京オ リンピックの開催が決まり、ホテルの建設ラ ッシュとともに壁紙の需要が伸びたこともき っかけのひとつだと言われている。
 ところが、日本で使用される壁紙は白ばか り。本来「壁を飾る」ために生まれたはずな のに、ほど遠い使われ方だ。未だに日本の住 宅の壁は、約80%が白なのだそうだ。

動き始めた日本の壁紙文化

 日本における壁紙の歴史はま だまだ浅く、右のHistoryに もあるように、一般に普及したの は1960年代のこと。それも、 工務店など専門の事業者が内装 を施工する際に貼るものであり、 一度貼ったら長く使うものとされ てきたので、飽きのこない白やアイ ボリーの無地が好まれてきた。
 ところが2003年に、ヨーロ ッパで手軽に貼って剥がせるフリ ース壁紙が発表されると、日本で もDIYを楽しむ人々を中心に インテリアの一部として気軽に貼 り替える文化が広がり始めた。さ らに、流通の充実によって従来の 日本には無かった優れたデザインの輸入壁紙が比較的手軽に手に 入るようになり、その人気に拍車 をかけている。

素材による壁紙の種別

紙系

紙を素材とする壁紙。ケナフなど非木材紙を原料としたものもある。独特のデザインや色合いを持つものが多く、手漉き和紙のクロスも人気。環境や健康への配慮がなされている素材と言われている。水に弱く伸び縮みすることから施工も手入れも難しい。

繊維系

レーヨン、絹、麻などを織って作られたものと、ポリエステルやセルロースなどの化学繊維を織らずに絡ませて作られた不織布のものがある。不織布のものはフリース壁紙とも呼ばれ、世界的にはとてもポピュラー。デザインが豊富で施工も剥がすのも簡単なので、近年のDIY志向の高まりに伴って日本でも人気に。

塩化ビニル系

塩化ビニル樹脂を主原料とするビニルシートに紙などを裏打ちしたもの。日本では量産体制が整っており安価に購入できる上、抗菌性や防汚性などの機能を持たせやすく、手入れもしやすいことから多くの住宅で使用されている。施工や剥がした後の現状復帰が難しいので事業者による取り扱いが多い。

プラスチック系

ポリエチレン・ポリプロピレンなどの合成樹脂のシートに紙などを裏打ちしたもの。燃やしても有害ガスがほとんど発生しないので、環境に優しいと言われている。汚れに強く手入れもしやすいが、施工や剥がした後の現状復帰が難しいので事業者による取り扱いが多い。

その他

紙と珪藻土を混ぜてつくられてた「珪藻土クロス」や金属やガラス繊維が原料の「無機質壁紙」、薄くカットした天然木やコルクなどを紙と張り合わせた「木質系クロス」などがある。


洋服を着替えるように

 フリース壁紙の魅力は、貼るの も剥がすのも簡単だということ。  従来、日本で多く使用されてき たビニルクロスは、表面は塩化ビ ニルだが、壁との接着面には紙が 裏打ちされている。そのためノリ に含まれる水分を吸うと伸び、乾 くと縮む習性があり、壁紙のつな ぎ目に隙間ができたり、柄がズレ たりするので作業にコツが必要となる。さらに、壁紙にのりを塗って から貼るという手順になるため、 大きな壁紙を広げてのりを塗る スペースが必要になる上、壁紙の 幅は多くが半間(約 90 ㎝)で、意外 に幅広なため作業性も悪い。  それに対しフリース壁紙は、ほ とんど伸縮がないので、つなぎ目 に隙間ができたり柄がずれる心 配もなく、壁にのりを塗ってから 貼るので、広い作業スペースも必 要ない。さらに、幅が 50 ㎝程度と作 業性もよく、専用水性のりを使え ば貼り直しも簡単。剥がしても跡 が残らないので、現状復帰が必須 な賃貸住宅などにも使用できる。
 これらの手軽さとデザインの豊 富さから「洋服を着替えるように 壁紙を貼り替える」文化が日本に もやっと定着し始めた。

壁を楽しむ豊富なデザイン

 デザイン豊富な輸入のフリース 壁紙の中でも人気なのが、木やタ イル、レンガなどを模倣した壁紙 で、〝フェイク〞と呼ばれるものの ひとつ。風合いや凹凸がよく再現 されていて、かなりリアルだ。ま た、シャビーやブルックリンスタイ ルなどと呼ばれるエイジングされ たビンテージ感のあるものが人気 なのも今時の傾向だろう。アーテ ィストが壁一面を使って絵や写真 を完結させるミューラルと呼ばれ るジャンルの壁紙も注目され始め ているようだ。
 まずは、比較的取り入れやすい 木やタイルなどのフェイクの壁紙 をのぞいてみよう。

廃材をリアルに再現したSCRAPWOODシリーズの壁紙 (NLXL社/design:PIET HEIN EEK from オランダ)

空気感を出演する”素材のフェイク”

 木やタイルを模倣したフェイク の壁紙は、それ自体が主役になる わけではなのに、空間の印象を決 定づける絶大な力を持っている。
 例えば、同じ白でも、ただ壁の 白い部屋と白くペイントされた木 を模倣した壁紙が貼られた部屋 とでは、受ける印象が全く違う。つ まり、単に色から受けるイメージ とは違う空気感を演出する力を持っているのだ。しかし、存在はい たってさりげなく、本物の木板を 貼るような手間もかからない。

左:無機質でシャープな印象の白い壁の空間 右:暖かくカジュアルな印象の木板を模倣した壁紙の空間

 奇抜さがなく気軽に取り入れ られる上に効果が高い。そこがこ のタイプの壁紙の魅力だ。
 また、フリース壁紙は上からペ イントすることもできるので、自 分でエイジング感を足す人もいる のだそう。主張がない分、用途が 広くカスタマイズできる面白さも ある。

アクセント使いから始める”リピート”

 気分次第で壁を貼り替えたり 塗り替えたりする習慣のある欧 米の壁紙は、ファッションに匹敵す るくらいデザインが豊富だ。折角、 輸入壁紙を取り入れるなら、ぜひ 洋服を選ぶようにデザインを楽し んでもらいたい。
 しかし、気に入ったからと言っ て空間に大きな影響を与える壁 に個性的なものを貼るのは勇気 がいるもの。
 そこでおすすめなのが、リピー ト柄のものを全面ではなく、 1面 だけに使ってみること。デザインに もよるが、柄物のカーテンを掛けるくらいの感覚で取り入れられる ので、比較的ハードルが低い。

 しかも、フリース壁紙ならキレ イに剥がせて、 1面だけならあっと言う間に貼り替えられるので、 飽きれば替えればいい。そんな感覚で取り入れてみよう。
 また、気に入った柄があったな ら、壁だけでなく、テーブルや椅子 収納ボックスなどに貼ってみるの もフリース壁紙の楽しみ方のひとつだ。

主役になる壁紙

 急激な進化を遂げている壁紙市 場で今注目されているのが、主役 になる壁紙。一昨年ごろには本棚を 模した壁紙が話題になった。それ 以外にも、扉をプリントしたものや スーパーの棚を描いたものなど、ト リックアートのようなフェイクの壁 紙が続々登場している。
 また、アーティストが描いた一枚 絵を壁一面に展開するミューラル と呼ばれるジャンルでは、名だたる アーティストが次々と作品を発表 している。

本棚を模倣したフェイクの壁紙

ドアを描いたフェイクの壁紙。本物のドアに貼っても楽しめる

伝説のグラフ誌「LIFE」を飾った写真を組み合わせた壁紙

一枚絵を壁一面に展開するミューラルと呼ばれるジャンルの壁紙

風景写真のミューラルタイプの壁紙

 これらの個性的で癖の強いもの が受け入れられるようになったのも、貼りやすく剥がしやすいフリ ース壁紙が登場したおかげだ。

"空間を彩る日本の紙"

 古来日本家屋は、柱を軸に襖や障子で空間を仕切っていたので、障子紙や襖紙が壁紙の役割を果たしていた。そのため、日本における壁紙の文化はまだまだ浅く、最近になってようやく欧米の壁紙を輸入することをきっかけに、貼り替えて楽しむことを知ったばかりだ。
 もちろん戦後、日本でもたくさんの壁紙が製造されてきた。しかし大半が白またはアイボリーのビニルクロスであったし、柄についても欧米のデザインを模倣するようなものが多かったようだ。
 中には、和柄をプリントしたものや、和紙や織物を使った日本的なものもあったが、それらは一部の特殊な空間に使われるだけに止まってきた。
 しかしよく考えてみれば、ヨーロッパで壁紙が普及した16世紀よりずっと前から日本には『襖』『障子』『屏風』があったのだから〝空間を彩る紙〞の文化には長い歴史があるとも言える。
 近年、その文化を生かしつつ、現代に則した壁紙が生まれ注目を浴びている。

原点に戻って未来を紡ぐ日本の壁紙"絹布紙"

 『絹布紙(きぬふし)』は薄く織られた絹織物に越前和紙を裏打ちしたもので、古くから屏風や襖紙として使われてきた。絹織物特有の不規則な紡ぎやシケが醸し出す温かな風合いと、光の角度で表情を変える上品な光沢が魅力の素材だ。しかしながら、糸の染色から和紙の張り合わせまで大層な手間と技術が必要な上に大きな需要もなかったため、製造元は福井県に一軒を残すだけとなっていた。

 そんな消え入りそうな素材を見出したのが伝統技術ディレクターの立川裕大氏が発足させたプロジェクト『ubushina』だ(株式会社t.c.k.wの事業)。優れた伝統技術を掘り起こすと共に、活用方法をも開拓している彼らによって多くのクリエイターに紹介された『絹布紙』は〝美しい紙〞というシンプルな性格を生かして様々な形で空間を彩り始めた。その代表的な用途が壁紙としての利用だ。
 丁寧な仕事が生み出す『絹布紙』の佇まいは、和洋を問わず、温かくもシャープにもその場を上質に仕立ててくれる。また、ホルムアルデヒドを含まず保湿性、吸湿性、通気性などにも優れている点においても壁紙にふさわしい素材と言える。

上品な光沢を放つ『絹布紙』

 近年、『ubushina』に限らず日本のものづくりの技術はさまざまなところで見直され、宝として愛でるばかりでなく、未来を紡ぐ一手として活用されるようになってきた。その流れの中で、ひたすら欧米を追いかけてきた日本の壁紙の歴史も新たなステージを迎えているようだ。

ホテルグランヴィア大阪 レストラン「フルーヴ」

大分パークプレイス展示場 パナホーム株式会社

個人邸・寝室

取材・写真協力

●WALLPAPER MUSEUM WALPA
大阪市大正区小林西 1丁目15-12
tel.050-3538-8903
http://walpa.jp
「洋服を着替えるように気軽に壁紙も着替えてみる」そんな時代を目指して、世界中から集めた選りすぐりの壁紙を紹介しているる「WALPA」。
商品の販売に留まらず、ワークショップやマガジンを通して、壁紙を楽しむライフスタイルを提案している。

●ubushina
tel.03-3440-4697
http://www.ubushina.com
伝統的な技法から先端加工技術まで、日本各地に眠る多様な技術を掘り起こし、優れたものづくりを未来へとつなぐプロジェクト「ubushima」。多彩なネットワークを背景に、世界に誇る日本ブランドの商品を幅広く紹介している。