巻頭特集

家事のはかどる家

家事とは、家庭生活を営むうえで 必要な作業のこと。 つまり、たとえ一人暮らしでも 暮らしがあれば家事はあり、 料理や掃除だけでなく、子育ても介護も、 お金のやりくりも家事の一部。 仕事や趣味の時間を除けば 残りは全て家事だとも言えるから ある意味、人として生きるための 基幹作業とも言えます。
今回は、昔ながらの自然に寄り添う暮らしを 実践しておられる栁原里実さんに 家事がはかどる方法について うかがいました。

大切にしたいヒト・モノ・コトに囲まれて暮らす
食材は買いたい人から買う。作れそうなものは作ってみる

 四季を愉しむ暮らしのワークショップ「こどもてらこや・おとな寺子屋」を主宰している栁原さん。彼女は普段から鰹節を削ってだしをとり、味噌を仕込んで、漬物や梅干しを漬ける昔ながらの暮らしを実践している。
 「特別なことをしているつもりはなくて、大先輩たちが普通にやっていたことに倣って続けているだけです。テーブルを飾るのが好きで、お客様が来るとこうやって手をかけるものだから家事好きに誤解されるんですが、どちらかと言えば家事は苦手です。
 そんな私のやる気を支えているのは、大切にしたいと思う気持ちですね。
 例えば食だと、大切な家族の体を作るものだから体に良い旬のものを気持ちを込めて届けたいと思うし、大変な苦労をされて昔ながらの農法で米や野菜を育てておられる方から食材を買えば、その苦労に感謝して大切にいただきたいと思うし。
 昔ながらの農法を残そうとする人たちを応援したい気持ちもあるので、食材はできる限り彼らから買うようにしています。
 少し大げさかもしれませんが、昔ながらの営みの中には、感謝したり大切に思ったりする『祈り』のようなものが組み込まれていると思います。節句や彼岸などの伝統行事を見れば分かりますよね。
 それを実感するために、自分で米や野菜を育ててみたり、竹ぼうきやカゴ、箸などの暮らしの道具を手作りしたりしています。
 米づくりの大変さが分かれば一粒も残さず大切にいただきたいと心から思えるし、自分でつくった竹ぼうきでする掃除には気持ちが入りますからね。それが私流の家事へのモチベーションかもしれません」。

自作の竹ぼうきでの掃除は、道具を大切に、最大限に 生かそうと気持ちが入りモチベーションにもつながる。

名人に習って作ったという竹ぼうき。竹を切 り出すところから参加したそう。

こどもてらこやの畑で子ども達と一緒に収穫。

 
 そもそも好奇心旺盛な彼女は、全てのものがどうやってできているのか知りたい性分。それを追求するうち、何でも自分でつくろうとするようになったようだ。

取材当日栁原邸に到着すると、季節に彩られた歓迎のテーブルが 用意されていた。お菓子はほとんど手作り。左:酒粕のトリュフに甘 夏のピールを添えて。中:おからのケーキ、抹茶のういろう、ゆべし。 右:庭で採れた白いちじくのシロップ漬けをバルサミコで。

毎年仕込むという自家製の味噌。

秋刀魚や栗など、季節の食材を使って丁寧に つくられた夕食。

モノや情報の整理整頓で 心を整え、活力を生む

 10 年前に築 23 年の民家を購入しリノベーションしたという自宅の1階は、1フロアで収納棚のほとんどがオープンになっている。いろいろとむき出しなのに、雑多な印象はなく、逆に適度な生活感が心地よい。

1・2階とも1フロアで吹き抜けになっている ので、いつでも家族の気配が感じられる。

 「物は質と量を吟味して無駄な物は持たないようにしているのでここにあるのは全て使うもの。だから、出し入れしやすいように扉は付けていません。見えるところには大好きな竹や木の道具を置いたり、かごを使って細々したものを収納したり、目障りな物は布で隠したり。

キッチンカウンターの向こうにある大きな収納棚には、使い込まれ た木桶やもろふたなど、昔ながらの道具が並ぶ。

 掃除や片付けは心を整えてくれますから、とても大切な作業です。部屋がスッキリしていないと落ち着きませんから。

キッチンカウンター下も道具や食器が取り出し やすいよう、扉がない。

よく使う調味料は1アクションで使えるようふたは しない。

よく使うカップやグラスはかごに放り込んで収納。

 子どもが小さなうちは次から次へ散らかすので、そういう時は、子どもの手の届かない小さな一角だけをキレイにして、そこを眺めて気持ちを落ち着かせていました。
 あと、情報が入り乱れて混乱した頭を整理してくれる手帳も心を整えてくれます。落ち着くと、次の一歩が踏み出せますから、家事のモチベーションにもなっていると思います」。
 どうやら彼女にとって家事とは、ただ暮らすためにこなす作業ではなく、自分と家族の心と体を整えるために学び実践することのようだ。その目的こそ、彼女にとっては家事のモチベーションであり、はかどる秘訣と言えるだろう。

家事がはかどる道具選び

家事がはかどるのはどんな時だろう。もちろん、動線や収納がスムーズだとストレスが少ないのではかどるのは確かだ。しかし、それ以外にも家事をはかどらせる方法はある。
それは、先のページにもあったようにモチベーションをあげて前向きになることで体の動きを軽やかにする方法だ。
例えば、大切なお客様が来ると思えば、掃除にも料理にも前向きになれるだろう。新居を購入したら掃除にも力が入るし、ピカピカのキッチンなら料理を作るのにもワクワクするだろう。
そして、さらに簡単な方法と言えばお気に入りの道具に囲まれて家事をすることではないだろうか。そこで、人気雑貨店「hal」の店主後藤由紀子さんに、家事がはかどる道具についてうかがった。

 「hal」は、後藤さんが大好きな暮らしの道具や衣類、書籍などが並ぶお店。2003年のオープン以来、取り扱い商品に大きな変化がないところから、長く付き合える商品が揃っていることが分かる。
 「見ていただくと分かると思うのですが、オーソドックスなものが好きなんです。飯碗らしい飯碗、グラスらしいグラス」。
 そんな後藤さんが、先月新しい商品を導入した。それがひのきの枡重だ。
 「ずっと前から知っていたのですが、店では塗りのお重を扱っていますし、きっと値が張るだろうと思って諦めていたんです。でも、先月の展示会で改めて見たら、意外に安くてじゃぶじゃぶ洗えるので、カジュアルに使ってもらえるなと思って扱うことにしました。洋服以外では久しぶりの新商品です。この店に並んでいる商品は我が家にあるものとほぼ同じですから、プライベートでも久しぶりの新風。何に使おうかなぁと考えるのが楽しくて、まずは実家にお稲荷さんを作って詰めて行こうかなとか、店で仕事の時にお弁当を作って持って行こうかなとか。シンプルだからいろいろなものに使えそうでしょう?
 使い道をあれこれと想像させてくれる道具は、家事のモチベーションを上げてくれますね」。
 後藤さんがシンプルな道具を好むのは、使い勝手が良いことや飽きがこないことももちろんだが、用途が広がって、あれこれと想像するのが楽しいからでもあるようだ。

ヤマサキデザインワークス 枡重 枡の高さが3種類あり、そ れぞれ別売なので、好きな 組み合わせで使うことがで きる。ひのきの枡をお重用 に仕立てており、水洗い OKなのでお手入れも簡 単。お重として、お弁当箱 としてまた、お皿としてなど、 使い方はあなた次第。
高さ
25mm 1,200円(税別) 45mm 1,500円(税別) 60mm 1,800円(税別) ※W×D 140×140mm

ベトナムPPテープバスケット ベトナム産のオリジナルのバスケット。 軽くて水にも強いでの、買い物かごとしてもアウトドア用品としても重宝する。 重いものを入れた時にも手が痛くならないよう、持ち手にはカバーがつけられている。
左から
L(約27×45×15cm) 3,800円(税別) 
M( 約24×38×13cm)3,000円(税別)
S(約19×30×12cm) 2,000円(税別)

松徳硝子株式会社 うすはりシリーズ オールド 持ち上げた時の軽さに驚き、飲んだ時の口当たりに感動するうすはりのグラス。 一度使うとクセになる逸品だ。「1,000円代で叶う贅沢」と後藤さん。 花を飾るのに使っても、置いてあるだけもこの美しさは秀逸だ。
左から
L 1,500円(税別)  
M 1,300円(税別)  
S 1,200円(税別)

道具はやっぱり使い勝手

 取材当日、途中で入って来られたお客様が、後藤さんがデザインしたワンピースを購入された。その時の会話が後藤さんの物選びを語っている。
 「こういう普通のワンピースが意外にないんですよね。だから作っていただいたんです」。
 普通が普通な理由は、最も多くの人が認めるものだからだ。先のページで後藤さんが話してくれた「飯碗らしい飯碗。グラスらしいグラス」というのも同じで、長い年月をかけて多くの人に使われながら淘汰されて、飯碗として最も使いやすく、グラスとして最も飲みやすい形=普通が生まれる。
 「道具はやっぱり使い勝手が大切ですよ。使い勝手が良いと使っていて気持ちが良いので、作業的にも精神的にもはかどります。
 このしょうゆさしもそんな道具のひとつ。これ以外のしょうゆさしは思いつかないほど秀逸です。
 また、このデンマーク王室御用達のカトラリーもとても使いやすい。王室ですから晩餐会などにも使われるはずなのに、このシンプルさ。もっとデコラティブなものを選びそうなのにね。
 デンマークはデザイン大国ですから、これこそ優れたデザインということだと思います」。
 使い勝手とデザインは相反するものではない。むしろ、洗練されればされるほどデザインはシンプルになり、優れた機能性も伴ってしょうゆさしらしいしょうゆさし、スプーンらしいスプーンが生まれる。

白山陶器 G型しょうゆさし 1958年生産開始のロングセラー。しょうゆの補充しやすさ、 注ぎやすさ、液だれのしにくさ、安定感、すべてに定評があり、 後藤さんに限らずしょうゆさしといえば白山陶器という人も少なくない。
大 1,600円(税別)
小 1,400円(税別)

KAY BOJESEN(カイ・ボイスン)のカトラリー デンマーク王室御用達のカトラリー。発売から50年以上もの間、 品質の良さと、シンプルなデザインで北欧はもちろん、全世界で愛されている。 後藤さんのオススメはランチナイフとスープスプーン。 左から4本目 ランチナイフ 1,500円(税別)
右から3本目 スープスプーン 1,100円(税別)

濱田正明さんの麺丼 北九州市門司にある濱田窯の丼。ラーメンにうどん、親子丼まで幅広く 使え、和食だけでなく、洋食にも意外に合う。多くの丼が重くて扱いにくい のに対して、ぽってりと温かな見た目からは想像できない軽さ。
いずれも5,200円(税別)

さまざまなメディアで活躍する後藤さんだが、時々困ることもあるそう。
 「おかげさまで、一冊目を出して以来、取材をご依頼いただくようになってとてもありがたいのですが、時々困ることがあります。それは、私がとても丁寧な暮らしをしていると勘違いされていること。
 私は、味噌を仕込んだりしませんし、オーガニックにこだわってもいません。どちらかと言うとのんびり動くし、休憩もたくさん必要なので、完璧な家事など無縁なんです。
 そんな私が、店を続けながら毎日必ず家族と食卓を囲むことができたのは、段取りを考えるのが上手だからでしょうか。
 のんびり屋ですから無計画だと大切なことを忘れちゃうかもしれないので、大まかな段取りだけは紙に書いて、終わったことから消していくようにしています。紙に書き出すと、頭の整理にもなって良いんですよね。もちろん、のんびり屋でも消化できるよう配慮した段取りです。
 家事のはかどり方は人それぞれだと思います。私のように、休憩をたっぷりとった方がはかどる人もいるし、止まらない方が良い人もいるでしょうし。
 周りがどうであれ、自分のペースを認めて、無理せず自分に合った暮らし方を見つけることです。道具も自分の性分に合った道具が一番ですよ」。

CINQ(サンク) 長財布 柔らかな牛革が使いやすくしっくりと手に馴染む長財布。 ポケットが細かく分かれていて、無理なくたっぷり入るので、財布が 散らかりがちな人にもおすすめ。傷が目立ちにくいのもうれしい。 ブラック/ダークブラウン/キャメル 各18,500円(税別)

藤原千鶴さんのルームシューズ(専用バッグ付) 藤原千鶴さんはルームシューズだけを作り続けている作家。足や靴の ことを知り尽くしているからこそのフィット感は1度履くと忘れられない 心地よさ。専用の袋が付いているので参観日にもぴったり。 サイズは各3種 
いずれも 8,300円(税込)

田谷直子 急須 丸いフォルムと温かな土の風合いが、お茶の時間をゆったりと演出して くれる。のんびり屋で休憩が多い後藤さんには、大切な相棒。
いずれも 9,000円(税別)

取材協力

栁原里実さん
自然に寄り添い、四季を愉しんでいた 昔の豊かな暮らしを伝え残したいと、 ワークショップ「こどもてらこや・おとな寺子屋」 を主宰している。2児の母。北摂の人気イベント 「ロハスフェスタ」の「ロハスフェスタ大使」としても 活躍している。
https://terakoya3.blogspot.jp

後藤由紀子さん
沼津の人気雑貨店「hal」の店主。
大学生の長男と高校生の長女を持つ母でもある。
家族を第一に考えながらも自分らしく暮らすスタイルやファッションが雑誌等で紹介され、人気を集めている。

SHOP INFO

hal
静岡県沼津市添地町124
TEL.055-963-2556
OPEN/10時半 ~ 16時 水曜定休
http://hal2003.net

book info

毎日のことだから。 7分目くらいが ちょうどいい PHP研究所 本体:1,400円

家族が 居心地のいい 暮らし あさ出版 本体:1,300円