巻頭特集

のびのび子育ての家

「母親として、妻として2足のわらじを…」などという言葉をよく耳にするがそもそも履き分ける必要があるものなのだろうか?今回は、母親でありながらも自分らしく輝き、さまざまな子育て支援事業を通して多くのママ達をサポートしているお二人に子育てへの向き合い方について伺った。

株式会社マザーディクショナリー 代表:桑原 紀佐子
対談
料理家・フードスタイリスト・ 親子料理研究家:黄川田としえ

桑原 紀佐子さん

[Profile]
株式会社マザーディクショナリー代表。メディアやイベント、ワークショップなどを通して、自分らしく生き生きと子育てを楽しんでいるお母さんクリエイター達の暮らしぶりや考え方を発信している。渋谷区こども・親子支援センター「かぞくのアトリエ」並びに「代官山ティーンズ・クリエイティブ」の運営も手がける。25歳を筆頭に3人の子の母。
http://www.motherdictionary.com

黄川田としえさん

[Profile]
料理家・フードスタイリスト・親子料理研究家。こどもレストランやキッズワークショップなどを主催している『tottorante』代表。家族・子育てにおける食の大切さ、楽しさを発信している。高校生と小学生の子を持つ母。夫は元プロサッカー選手。
https://toshiekikawada.com

Q.どんな環境で子育てを してこられたのですか?

桑 原(敬称略)
 私は卒業と同時に結婚して21歳で長女を出産してから3人目が1歳になるまでの約10年間、社会に出ることなく子育てに専念していました。夫は子ども好きでしたが、3人もいるとなかなか〝パパに預けて気晴らしにお出かけ〞みたいなことはできませんでしたね。

黄川田
 私も大学卒業後、半年くらい働いてすぐに夫について札幌へ行ってしまったので、大した社会経験もないまま主婦になりました。子どもを授かったのは4年後です。すぐに東京へ戻りましたから母に助けてもらえたし、夫もオフにはどっぷりと家にいてくれたので家族一緒に過ごす時間はたくさんありました。たまにメイクの仕事をしていましたが、夫のサポートと子育てに支障が出ない程度にと心がけていました。

Q.お二人にとって子育てはどんなものでしたか?

桑 原
 楽しくて仕方なかったですね。

黄川田
 私もです。子どもがいると、それまで行ったことのなかった場所へ出かけられたり、見ることのなかったものに出会えたりするでしょう。そういう〝赤ちゃんがいる暮らし〞という新しい世界を楽しんでいました。〝次はどこへ行こう?何をしよう?〞って。

桑 原
 そうなんですよ。子どもがいると、知っている絵本や見たことのある景色でも、あらためて子どもの目線で見ることができて、新しい発見がありますよね。それがとても楽しくて…。もちろん、泣き止まないとか、一日中食事の支度をしているなぁとか大変に思うこともありましたけどね。

黄川田
 そうそう。私はとにかく〝寝かせてくれ〞と思っていましたよ。でも2歳になって保育園に預けるとなると、もっと一緒にいたいと思ったりして。

桑 原
 分かります。寝てくれないとか自分の時間がないとか、子育てって、ネガティブなことをあげたらキリがないほど大変ですけど、無条件で天使のように可愛いのはわずかな時間。それを貴重だと思えたら、途端に幸せな時間に思えるんです。同じ状況でも、心持ちひとつなんですよね。

Q.お二人は子育てのどんなことに悩んで
どう乗り越えましたか?

黄川田
 私は楽観的なので、大抵は〝まぁいいか〞で乗り越えてきました。でも長男については初めての子育てだったので、心配したこともありましたね。周りにお友達がたくさんいるのに一人で遊んでいたり、他の子達と同じでないことが不安になったり。自分が子どもだった時のことを思い出してみるんですが、全く違うので分からなくて。当時は幼い頃の自分というモノサシしか持っていなくて、〝一人でいる〞=寂しいとかいじめられてるんじゃないかと思って心配でした。でも、本人に尋ねると「あの時は一人が良かったの。お友達と遊ぶのも好きだよ」って。〝そういう個性を持った子〞というだけのことだったんですよね。

桑 原
 自分のお腹から出てきたのに驚くほど自分と違ったり、同じ環境で育った兄弟なのに正反対だったり…不思議ですね。でも子どもは母親の分身じゃない。それぞれが個性を持った全く別のひとりの人間であることを認めて尊重することが大切ですよね。そうすれば〝こうでなければ〞という理想の呪縛から逃れられて、自分も子どもも楽になれるんじゃないかしら。

黄川田
 本当にそう思います。息子のことで不安になった時も、それが彼の個性なんだと分かってからは安心して見ていられたし、それ以降彼ものびのびやっています。高校生になった今では当時ネガティブに捉えていた彼の性格が魅力に思えますよ。

桑 原
 仕事で親子教室などをすると、みんなで一緒に楽しめる子とそうでない子がいるでしょう。そんな時、親御さんから相談されたらこう伝えています。〝そこは一旦、置いておいて良いところを見てください〞と。マイナスなところを気にして指摘し続けると、子どもも萎縮して、ますますマイナスが膨らんでしまいます。これは思春期の子にも大人にも言えることですが、マイナス部分を一旦忘れて、良いところを見るようにすると、いつの間にかマイナス部分が薄らいでいくもののように思います。

黄川田
 そうやって助言してくださる方は大切ですよね。自分でかけた呪縛から逃れるのって、ひとりでは難しいですから。私の場合は学校の先生や友人によく話を聞いてもらっていました。

桑 原
 話す相手は必要ですね。私の場合は先輩ママ達でした。悩んだ時は彼女達と話すことで情報を取捨選択しながら方向を見つけることができました。

黄川田
 そうですね。どんな情報も鵜呑みにするのではなく、ちゃんと消化してから判断しないといけませんね。

桑 原
 特に今は情報が溢れていますから、振り回されないようにしなくちゃね。上辺だけの理解だと逆効果になることもあるし、全ての情報がその子に当てはまるとも限らないし、敏感に反応しすぎると子どもや自分を追い込むことにもなりかねないし。

黄川田
 最近はSNSがあるので他のお家の情報が手に取るように分かるでしょう。それに一喜一憂しているお母さんも少なくないようですね。よその子と自分の子を比較したり、家庭環境を羨んだり。気持ちは分かるけれど、比べるのは一番の敵だと言いたいです。まずは、良い悪いではなく、自分の子にどういう特徴があって、何が得意で何が苦手なのか知ることが大事ですよね。

桑 原
 そう。その上で本人の自発的な成長を見守る。親という字は木の上に立って見ると書くでしょう?それくらいのスタンスであまり口出しせず、うまくいかない時は〝ダメ〞とか〝こうしなさい〞と否定や強制をするのではなく、〝こうした方がいいんじゃないかな〞と次の提案をしてあげる。そうすれば自発的に前へ進んでいけるかもしれませんね。

Q.お二人のようにママでありながら、
自分らしく あり続けるコツは?

桑 原
 確かに子育て中は子どもから目が離せないので、自分だけの時間はありませんでした。でも、それが自分らしさを活かせないわけではありません。むしろ学ぶことが多いので自分磨きになっていたと思います。良い意味で子育ては修行ですよ。

黄川田
 ですね。お仕事でレシピやスタイリングを考えている時間は自分だけの時間なんですけど、そこにいる自分は、ママであり妻であるからこそ生まれた自分なんです。家族なくして今の自分はないし、自分が輝けるお仕事の場もありません。そもそも子育てをしながら働きたかったから、子ども達に食を伝える仕事を選びましたしね。結果的にやりたいことにたどりつけてとても幸せです。

桑 原
 私も子育て中に経験したことや母の視点で生まれたアイデアをいつか何かで活かしたいと思っていてマザーディクショナリーに至りました。私がそうであったように、お母さん達は子どもと暮らす中で得た視点で、新しいモノや世界を生み出す力を持っています。だから私は各分野で活躍しているお母さんクリエイター達のものの見方や考え方を知りたいと思ったし、みなさんに伝えたいと思いました。それに、子育てしながら家事もこなしてきたお母さん達って、人材としても優秀なことが多いんですよ。だって、子どもや夫の予定に配慮しながら料理や掃除をこなし、子どもの面倒を見て、学校や幼稚園の対応もして、お金のやりくりまで考えるんですから、広い視野と高いマネジメント力が養われるはずですよ。

Q.子育て中のお母さん達に 伝えたいことは?

黄川田
 まずは、ごはんを作ってあげてください。そして、家族で食卓を囲んで会話をして〝食事って楽しいんだよ〞ということを伝えてあげてください。食卓には多くの学びがありますから、そこが豊かだと心も体も健やかに育つと思います。

桑 原
 子育ては大変なことも多いと思いますが無駄なことはひとつもありません。やってきたことは、いつどんな形かは分かりませんが、必ず返ってきますから、楽しみにしていればいいと思います。だからぜひ子育てを楽しんで、笑顔でいてください。そして、子どもには温かな食事と自然に触れさせることを忘れないで。それさえちゃんとしていれば、人としてのベースは形づくられると私は信じています。

家族の軌跡に包まれて暮らす
料理家・フードスタイリスト・親子料理研究家 黄川田としえさんのご自宅

 料理家として、家族で囲む食事の大切さを発信している黄川田さんのご自宅は家族への愛情で溢れている。印象的なリビングのピンクの壁には、まるで思い出アルバムのようにその時々の家族写真が飾られている。また、ダイニングの黄色い壁には息子さんが小学生の頃に描いたという絵が、寝室の青い壁には黄川田さんが娘さんのためにリメイクしたというワンピースが。

 「この家は築約30年の賃貸なんですが、大家さんに許可をいただいて、ところどころポイントになる壁をペイントしました。ウォールペインターの友人に指導してもらいながら家族みんなで塗ったので、この壁自体も思い出です。ペイントした壁は部屋のポイントになるので、そこに気に入ったものを集めて飾っています。家族写真を貼っておくと、怒った後などトゲトゲとした気持ちの時にふと目に入って優しい気持ちになれますよ」と黄川田さん。大胆な色を使いながらも安らぐ空間に思えるのは、家族への愛情が感じられるからだろう。

家族の歴史が 垣間見られる家族写真
ご夫婦二人の時代から子どもが生まれて家族が増え、子ども達が大きくなっていく黄川田家の歴史が垣間見られる。

黄川田さんがリメイクした 娘さんのワンピース
娘さんへの気持ちのこもったワンピース。赤いストライプが青い壁によく映える。

個性が光る 息子さんの作品 小学生の頃、絵画教室に通って描いたという息子さん作の油絵(左下)はどれも個性的な色使い。教室を辞めてからはあまり描かなくなったそうだが、1年ほど前に突然、象の絵(右下)を描いてくれたのだそう。バックのピンクが部屋の壁を思わせる。

光と植物と元気色

 黄川田邸のインテリアには3つの特徴がある。1つはポイントとなる元気な色使い。次に隙を縫うように置かれた植物。最後に窓から差し込む自然光を最大限に生かしていること。

つくり付けのキャビネットの奥まった部分には黄色を使って明るい印象に。

寝室の壁はリラックス効果があると言われている青。

玄関を入ると真っ先に目に飛び込んでくるピンクの壁と無造作に置かれた植物や木ノ実たち。

手軽に部屋の印象を変えることができるクロス類はスタイリングの強い味方。

 「このピンクは主人が好きなメキシコの建築家の定番色なんです。そして、奥まって暗く見えそうな所には黄色、寝室には気持ちの安らぐ青を使いました」と黄川田さん。他にもキッチンに並んだ鍋や部屋を飾るクロス類にも元気な色が散りばめられている。

赤や黄色の鍋がキッチンを楽しげに見せてくれる。

 そしてインパクトのあるこれらの色を優しい印象にさせているのが植物たちだ。特にピンクの壁には緑が映え、差し込む光を受けて一層ナチュラルな印象を受ける。
 ただ好きなものを集めたらこうなったという黄川田さんだが、スタイリストらしく個性的で自由を感じる空間となっている。

自生しているような植物たち
黄川田邸に飾られている植物たちは不思議と、もともとそこに生えていたかのような顔をしている。それはおそらく、その草花の持っている個性をそのまま生かしているからだろう。それはまるで子どもの個性をそのまま受け入れる黄川田さんの子育てのようだ。

カーテンは光を通す白
印象的な壁のポイント色とは対照的に、白の分量が多いのも黄川田邸の特徴だ。特に光の差し込む窓にかけられたカーテンは全て光が通り抜けやすい白。また、布団カバーやテーブルクロス、ソファにかけられたクロスも白。取り込んだ光を反射してくれるので部屋中に光が行き渡っている。

book info

黄川田としえさんの本
「毎日のごはんと心地よい暮らし」価格: 1,400円+税( 宝島社)
黄川田さんの日々のお料理と心地よい暮らしを、写真とエッセイ、レシピで綴った一冊。家族の幸せを一番に考える彼女ならではの温かな思いが詰まっています。