The Study

ドア

History

2010年10月、そのドアはスイス・チューリッヒ・ベルビュー地区にほど近い建設現場で発見された。ポプラの木でできていて高さ153㎝幅88㎝、木製のドアノブが残っておりデザイン的にもエレガントなものだったそうだ。今から約5,000年も前のものだと推定され、世界最古のドアと言われている。
 ドアの定義にもよるが、スライドではなく、回転させて開閉するという点で捉えると、日本にも平安時代にはドアと呼んでもよさそうなものがあった。「蔀戸(しとみど)」と呼ばれる水平に回転する跳ね上げ式の建具だ。今のようにヒンジ(蝶番)で開閉するのではなく、木軸を回転させるもので、枕草子には「ひとり念じ挙ぐる、いと重し」とあるので、開け閉めがかなり大変なものだったと思われる。
 また、同時期に「妻戸(つまど)」と呼ばれる垂直軸の扉も見られるようになる。この様式は城や寺社の門にも多く残っているので誰もが知るところだ。いつの頃からか定かではないが、少し進化し、八双金物と呼ばれる扉の吊り元を補強するものが見られるようになる。
 現代のような蝶番形式のドアが用いられるようになったのは明治以降のこと。日本独自に進化したのではなく、西洋建築と共に入ってきたものだが、ヒンジ(蝶番)自体はそれ以前から日本にもあった。屏風の折れ目に使われる「もろおれ」と呼ばれる紙の蝶番だ。屏風も空間を仕切る役割も果たしていたと思えば、日本最古のドアは屏風なのかもしれない。

古くて新しい憧れの木製ドア

 空間への出入りに使う建具は多々あるが、今回は「木製のドア」に限定して特集したいと思う。
 先のヒストリーにもあるように、現代のようにヒンジ(蝶番)を使ったドアは明治以降に西洋建築と共に渡って来たようだ。
 そもそも当時のドアは木製だった。日本でも建具と言えば木製が当たり前だったので、ドアが木製だということについては、いたって普通のことだっただろう。
 ところが戦後、暮らしの欧米化の中で次々と建てられた家にはアルミやスチールのドアが多く使われるようになった。これは、防犯性や耐久性、強度を保つことと、コストパフォーマンスの面から量産されるようになったことに起因する。また、量産するドアには汎用性が求められるので、デザイン的にもシンプルなものが多く、悪く言えば個性のないものに偏りがちになっていった。しかしこれは、安くて丈夫で安心なものというニーズに答えたもので、今でもその傾向は変わらない。
 とりわけ玄関に使われるドアは家の顔。無機質でどこにでもあるものではなく、意匠性に優れ、温かみのあるものを使いたいと思う人々が増え始めた。そこで注目されたのが、古くからドアに親しんできた欧米で生産されたドアだ。
 後発の日本のドアが短期間で合理的に成長していく一方で、欧米では木製のドアは変わらずポピュラーで、一軒一軒の家に合わせてその都度設える姿勢もそのままに、強度や防犯性への配慮がされるなどの進化を遂げた。

木製ドアの代表格 北米からの輸入ドア

 そこで今回は、日本の輸入ドア市場で最も大きなシェアを占めている北米のドアを紹介する。
 高品質な木材が豊富に揃う北米は建材大国。ドアに関しては統一規格があるので、比較的導入もしやすい。そして何と言っても一番の魅力は、家に合わせて自分好みにカスタマイズできる意匠性だ。
 ベースのデザインが豊富な上に「樹種」、「色」、「ガラス」、「ドアノブなどの金具類」、「ドアノッカーなどの装飾品」、さらにドアを囲む「サイドライト」や「トリム」などの装飾まで、多岐に渡って選ぶことができる。また、それぞれのラインナップも豊富なのでオリジナルに近いドアを作ることができ、家の顔にふさわしいこだわりの一枚が手に入るというわけだ。

輸入ドア カスタマイズのポイント

デザイン
一言で北米ドアと言っても複数のメーカーがあり、それぞれにデザイナーを抱えてさまざまなテイストで展開しているので選べるデザインは無限だ。


木の種類
北米産に限らず、幅広い樹種を取り扱っている。色は仕上げの塗装で変えられるので、木目の表情などが決め手だ。上記は最もポピュラーな3種。


色・塗装
ペンキ塗装はもちろん、オイルステインで木目に深みを出したり、クリア塗装で無垢風に仕上げるなどさまざまな色の出し方がある。

ガラス
従来は外の気配を感じたり採光のためのガラスだったが、今は装飾が主な目的。アメリカでは玄関ドアのガラスについて法規制があり、一定の強化ガラスを使わなければならないので、防犯上でも割れた場合の安全性においても安心だ。


ドアノブ
ドアノブと言えば握り玉と呼ばれる丸い突起をイメージすると思うが、圧倒的に便利で人気が高いのがハンドル式だ。しかし、意匠性においては握り玉も人気。


トリム・サイドライト

トリム
ドアを囲む装飾枠。アメリカの戸建ての家では一般的なもので、家の顔である玄関の場合は特によく用いられる。最近ではシンプルなものが人気。

サイドライト
外光を取り入れるためにドアのサイドに設けられたスリット。電気が普及した現在では装飾的な役割を果たしていて、ガラスを使わない場合もある。

その他の装飾品
「ドアノッカー」や「キックプレート」など、実用というよりは装飾的な役割で付けられるパーツがいろいろとある。

北米発の輸入ドア  人気のテイストベスト3

選べることは楽しいことだが、選択肢があまりに多いと目移りして本当に好きなものが見えなくなることも…。
そこで、選択時の参考になる人気の高い3つのテイストについて紹介しよう。

牧歌的で温かな印象の 〝アメリカン トラディショナル〞

 デザイン的にはシンプルで強烈な存在感はないが、家の顔として素朴で優しい印象を演出してくれる。ドア自体はトラディショナルだが、現代風の空間にも馴染むので人気が高い。


繊細で美しい 〝ヨーロピアン トラディショナル〞

 ヨーロピアンと言っても北欧から東欧、南欧と幅広いが、最もポピュラーなのは女性的で繊細なフレンチスタイル。独特な世界観があり家の印象を決定づける力を持っている。アイアングリルを使ったものも多い。

宮殿の一室にでも招かれたような豪華なフレンチスタイルのドア


ちょっぴりアートな新派 〝モダン・ コンテンポラリー〞

 伝統的なものに人気が集まる中、新たな流れを作っているのがこのジャンルだ。古い納屋をイメージさせるデザインのドアや金物をリビングに持ち込んでみたり、規則性のない大胆なガラスのデザイン、またそういったものを和の古民家に持ち込むことで予想外の抜け感を生み出すなど、アーティスティックな遊び心が新たなドアの世界を開拓している。

和の古民家にシンプルな輸入ドアとステンドグラスのサイドライトを使用し大正ロマン風に ©株式会社オフィスイシムラトモコ建築設計

木製ドアのカリスマ的存在 アンティークドア

 木製ドアの人気を牽引しているもう1つのマーケットが「アンティークドア」の市場だ。新品のドアにあえてエイジングする人もいるほど、木製ドアの世界ではカリスマ性を放っている。
 人気の秘密は他のアンティーク同様、年月の積み重ねによって生まれる風合い。傷やサビ、ペンキの剥がれやその下から覗く前のペンキの色などが独特の抜け感を生み出している。
 また、今では再現できないような手仕事による細かな設えや、全て一点ものという希少性も人の心を掴んで離さない。
 日本のアンティークドア市場の大半を締めるのがイギリスとフランスから届くもので、1930年代前後のものが多い。
 同じヨーロッパのものでもイギリスのものは、質実剛健で無駄の少ないスマートなデザインの中にステンドグラスが可愛さを添えるなど、愛嬌のあるバランスが魅力。
 フランスのものは曲線の美しいアイアングリルが使われているなど、女性的で装飾性の高さが特徴となっている。
 イギリスのドアもフランスのものも特に規格がなく、大きさもドアノブの位置などもバラバラで、驚くほど高い位置にドアノブがあったり、足元にポストがあったり不思議なことも多い。またそれが、なぜそうなったのかという物語を想像させるのも大きな魅力のひとつだ。

アンティークドア 魅力のポイント

思いがけないところにポストがあるのもアンティークの面白さ!


年月の積み重ねによる風合い
ヨーロッパではドアは長く使い回されるものなので、オーナーが変わる度に色を塗り替えたり、鍵の位置が変えられたりする。ペンキが何層にも塗り重ねられてぽってりとしていたり、ところどころ剥げて前のオーナーの色が見えていたりするのはアンティークならではの魅力だ。


ポスト・ドアノッカー・番地プレート
ヨーロッパのドアにはしばしばポストがついている。これは、庭が広く敷地の外側にポストを設置するアメリカのドアにはない特徴だ。また、ドアノッカーや番地を表したナンバープレートがドアについているのもヨーロッパらしい特徴。


ステンドグラス
ステンドグラスのあり様は贅沢さの度合いを感じさせる。絵画の様に書き込まれた(焼き付けられた)ものもあれば、カットした色ガラスをケイムと呼ばれる金属製の枠にはめたシンプルなものもある。アールヌーボー以降は、花をモチーフにしたものが多い。


アイアングリルと のぞき窓
来客を確認したり、ちょっとしたことならここを開けて話すなどの目的でつけられているのぞき窓(スピーキングポート)には、アイアングリルがつけられていることが多い。


泥除け・キックプレート
内開きに開いたドアの下ついていて、泥を吐き出してくれるスイーパー(泥除け)や、足でドアを開ける時に使うキッキプレートも欧米ならではの設えだ。

何度も塗り重ねられたようで、ペイントに厚みが感じられ、傷口からは前のペイント色「青」が覗いている。また、鍵穴が3つもある点も面白い。花をモチーフにしたステンドグラスはスタンダードだが人気が高い。

アイアングリルの細工が美しい、装飾性の高いフレンチテイストな一枚。ポスト前に取っ手が付いているところも珍しい。

ガラスのないドアは、ジャンクな印象を生かしてブルックリンスタイルの部屋などによく使われる。ペイントでは出せないこのくたびれた風合いが魅力的。

金具が印象的な倉庫に使われていたドア。形が歪で隙間もあるので玄関には向かない一方、どこに使うか考えるのが楽しいドアだ。

絵画のように描かれたステンドグラスが印象的なドア。ドアノブの位置が妙に低いのも気になる一枚だ。

ヨーロッパらしい鮮やかなブルーのドア。オーバルのガラスに沿って作られた縁は手が込んでいて、今ではなかなか手に入らない。

全てを叶えたいなら オーダードア

 アンティークドアに憧れながらも、「安全性に不安が残る」、「サイズが合わない」などの課題がある場合は、一から作ってしまうのもひとつの方法だ。エイジングの加工も進んでいるし、アンティークの風合いを持った金具なども揃っているので、意外とリアルに再現できる。また、ガラス部分だけアンティークのものを使うなども効果的だ。少々値は張るが、全てを叶えたいならオススメの方法だ。

アンティークドアを補修し、現代的な空間に設置した実例。風合いを活かして存在感を出しながらも馴染んでいる。

オーダードアにも、セミオーダーから、完全に1からデザインを起こすオーダーまでさまざま。左はセミオーダーによるもの。ベースデザインと樹種、色、ガラス、ドアノブなどの金具類がカスタマイズできるので、オリジナル感は十分に味わえる。

エイジングされたオーダードア。アンティークの風合いがリアルに再現されている。ステンドグラスには防犯用の強化ガラスが使用されてる。

取材・写真協力

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