巻頭特集

外を感じる内

ウチ と ソト

「ウチ」という言葉はおもしろい。
内の「ウチ」、家の「ウチ」、関西では、私を「ウチ」と言う人もいる。
それぞれに意味は異なるものの並べてみると、無関係とは思えない。
そして、「ウチ」があると「ソト」が生まれる。

「内(ウチ)」は、境界線より手前や範囲の中、
または、中心に近づく方向を指していて、「ソト」より小さい(狭い)。
日本が「内(ウチ)」なら、日本以外は全て「ソト」
屋根の下が「内(ウチ)」なら、空の下が「ソト」となる。

「家(ウチ)」は、「家(イエ)」の言い換えでもあるが、使い方によっては、全く違った意味を成す。
例えば、「家(イエ)では、お母さんが一番強い」と「家(ウチ)では、
お母さんが一番強い」では、意味が異なる。
前者は、「外出先ではそうでもないが、家へ帰るとお母さんが一番強い」
後者は、「家族の中では、お母さんが一番強い」と、聞こえる。
つまり、「家(イエ)」は、建物や場所を指し「家(ウチ)」は、
家族など自分が所属する集団を指す傾向がありその場合「ソト」は、その集団を取り巻く社会となる。
私を「ウチ」と言うのも、これに近い。
「ウチら」「ウチの学校」などに対する「ソト」もそれを取り巻く社会を指している。

家づくりにおける「ウチ」と「ソト」はこの両方を持っている。
屋根の下と空の下の「ウチ」と「ソト」家族と社会の「ウチ」と「ソト」。

建具を開放すると、内と 外の境目を感じることな く、眺望、音、風、潮の香な ど、外の全てを楽しむこと ができるリビング。 写真:車田保

地域を幸せにする建築
『海辺の丘』

 一見、公園内の緑地のように見えるこの丘。実は住宅の屋根だと言うから驚きだ。この下に4人家族の住む平屋が埋まっている。丘の上の大きなベンチは、天井に設けられた採光用の窓。もちろん、ベンチとしても活躍している。

mA-style architects  静岡県御前崎市  写真:車田保

 この家を手がけたのは、静岡県に事務所を構えるエムエースタイル建築計画だ。同社が生み出す建物は、素人が見ても興味をそそられるものばかり。特に、『ウチ』と『ソト』の境界線を曖昧にする巧妙さと大胆さには驚かされる。
代表の川本敦史さんに話を聞いた。
「私たちは、ファッションやデザインから建築の世界に入ったので、最初は見た目に囚われていました。
 ところが、徐々に、地域の中に何の脈絡もなく突然現れる現代アートのような建物に違和感を覚えるようになったんです。そして今では、建築は街の一部であって、作品として主張すべきじゃない。より地域に馴染んで、極論を言えば、姿が見えなくなれば良いとすら思っています。さらに、その建築が、中で暮らす人たちだけでなく、周囲も幸せにできるようにと意識して取り組んでいます。
 例えば、隣家の陽当たりを邪魔しないように配慮して建てるとか、街に向かって庭を開いて地域の緑化に協力するとか。ささやかですが、周囲を幸せにしていますよね。そうすることで、人が集まり賑わう環境が生まれれば、建築としてあるべき良い状態だと言えます」。
 見栄えが良く、設備も整っているのに、人が集まらず閑散とした施設を時折見かける。これらの『箱物』と呼ばれてしかる建物こそ、川本さんの言う建築としてあるべき良い状態の真逆の見本だ。

海辺の丘

 この『海辺の丘』は、目の前に太平洋が広がる最高のロケーションに建っている。

丘の上からは太平洋が一望できる。右手には、まるで地下へ潜 るかのように開かれた玄関へのアプローチが。 写真:車田保

海側に設けられた家族 の庭。家をコンパクトに まとめ、自然を生かして のびのびとした庭を確 保した。 写真:車田保

おそらく、建物を高くすれば、家からは、もっと素晴らしいな眺めが望めただろう。でも、川本さんはそうしなかった。
 「なぜなら、街に建物の背中を見せて、美しい眺めを独り占めするのは、違うと思ったからです。
 そこで、海に向かって下り斜面だった場所に平屋を建て、土を盛って家を隠すことにしました。さらに、そこに芝を敷いてベンチを置き公園のように仕立て、誰もが海を眺められるようにしたんです。そうすれば『この丘、何だろう?』と気になって登った人たちが、目の前に広がる美しい景色を見て、この地の魅力に出会い直せるんじゃないかと考えたんです。もちろん、建主さんが寛容にも、プライベートな敷地に、地域社会という『ソト』を受け入れてくださったからこそ実現できたのですが…。

 建物は、ややもすると、地域にとって負の存在になる場合もあります。だから、意識的に周囲も幸せになるようにと心がけることが大切なんです」。
 ベンチとなっている採光用の窓から屋内を覗くことはできない。また、外部から勝手に家の中や海側に設けられた家族の庭にも入ることはできない。『ウチ』はしっかりと守られている。

玄関から家族の庭、そして、リビングの正面へと回りこめる石畳 の通路。廊下兼玄関土間の役割を果たしている。 写真:車田保

写真:車田保

屋根の上が街に開いた緑地部分。生活空間は奥まっ ているので、上から覗き込むことはできない。 写真:車田保

庭に敷かれた石を、建具の内側まで引き込むこと で、内と外の境目を曖昧にしている。 写真:車田保

心地良さと賑わいと
『光庭の棲』

 みなさんは、前に紹介したの『海辺の丘』のリビングを見て、どんな印象を持っただろうか。
爽やかな潮風、穏やかな波の音、どこか懐かしい草木や土の匂い。
多くの人が、「心地良さそうだ」と想像したはずだ。
 しかし、心地良さは人それぞれ。無機質でエアコンの効いた部屋を心地良いと思う人もいるだろう。でも、それでは寂しすぎると川本さんは言う。
 「家は心地良い場でなければなりません。では、人は何に心地良さを感じるか。そう考えた時に思い浮かぶのが、優しい木漏れ日や爽やかな風、草木の匂い、鳥の声、つまり、自然に包まれている状態。だから、私たちがつくる家は、『内』と『外』が混在し、境界線が曖昧になりがちなんです。幸い、私たちの拠点である静岡は、自然も豊富だし、温暖ですから、開放することで『外』を取り込みやすい傾向にあります。
 それに対し、都市部の住宅密集地で 30 坪弱、しかも起伏のある敷地の中で、『外』を感じる心地良さ生み出そうとしたのがこの『光庭の棲』でした」。

mA-style architects  愛知県名古屋市 写真:山内紀人

『光庭の棲』①内と外

 人間は想像する生き物だ。周囲に自然がないのなら、頭や心に手伝ってもらえばいい。そのきっかけをつくるには、ちょっとしたテクニックがあるようだ。
 「『内』と『外』の境界線を曖昧にするテクニックとしてよく使うのが、素材による印象。人は、クロスやフローリングなど、通常屋内にある素材が使われていると『内』、その逆で石や土などが使われていると『外』と感じやすくなります。『光庭の棲』では、外に敷いた石を屋内にまで引き込み、玄関ホールには石、土、植物で庭を造って天井から光を注ぎました。

リビングからの風景。 中心を貫く光庭が『外』 の心地良さを家全体 に届けてくれる。 写真:山内紀人

 また、この物件では、屋内に地面を侵入させたことも『外』を感じる理由のひとつだと思います。
 この敷地は、前の道路傍から奥に向かって、2mほどの段差があります。こういう場合、全体を2mあげて家を建てるのが一般的ですが、私たちはあえてそうせず、家の中に斜面を引き込み、地形の連続性を持たせたのです。

靴は、庭の手前で脱ぎ、 石段を登ってキッチン ダイニングへ。スキップ フロアでリビングそし て、スタディルームへと 繋がっている。 写真:山内紀人

 玄関や庭は、前の道とほぼ同じ高さにあるので、通る人の視界に入りやすく、その代わり、奥のキッチンダイニングは、起伏と庭木のおかげでさほど目立ちません」。
 図面からも分かるように、道路傍から始まる斜面は、玄関の中まで続いていて、敷かれている石はキッチンダイニングにまで続いている。また、庭と光が吹き抜けを貫いているので、低層エリアでは、どこにいても『外』を感じることができる。

『光庭の棲』② 家と外

 この作品で川本さんは、『人がとどまる境界線』をつくることに挑戦したのだそう。
 「昔は、ご近所さんが、縁側まで勝手に入って来て、おしゃべりが始まる光景がよく見られました。このように、第三者が断りもなくすっと入って来られる場所は、すでに公共性を持っていると言えます。つまり、『ソト』。
 『光庭の棲』では、玄関を縁側のように人がとどまる場所にしたいと考えました。キッチンをその奥に置いたのは、ここに人が集ってカフェのようになることを想定したからです。

間口の広い玄関フロアは、 縁側をイメージしたもの。 座って庭を楽しみながら、 お茶やお喋りが楽しめる。 写真:山内紀人

 もし、ここにご近所さんが座って家主さんと話をしていたら、前を通りかかった別のご近所さんもふらっと立ち寄って、小さな賑わいが生まれるかもしれません。人は、人が楽しそうにしていると目がいくものです。だから、あえて玄関と庭を、前を通る人の視界に入りやすくしました。
 もちろん、絶対にそうなるとか、しなければならないということではありません。ただ、起こりうる可能性をつくっておきたいのです。
 建物は、人の活動を呼び起こして初めて、ただの器から場になれます。そういう建築でありたいと願っています」。
 地域コミュニティからの孤立は都市部を中心に深刻な問題だ。防災や防犯などの危機管理のみならず、人間形成や心の健やかさを維持する上でも、人との繋がりはとても大切。そして、強いコミュニティが生まれれば、街をも元気にさせられるというものだ。
 建築の可能性に夢が広がる。

リビングへの階段に 続く廊下は、ダイニン グのベンチでもある。 ここはさながら森の カフェ。降り注ぐ光と 庭の緑に癒される心 地よい空間だ。 写真:山内紀人

変化で感じる外
『光の廓』

 冒頭の『海辺の丘』では、周囲の自然を使って、開くことで『外』を取り入れ心地良さを得た。次の『光庭の棲』では、屋内に『外』をつくって心地良さを生み出した。この作品では、あえて閉ざすことで『外』を感じさせようとしている。
 「建物は、動かないし変化しません。それに対して、草木は季節によって表情を変えるし、陽の光は夜が近づくにつれて薄暗くなります。このように、変化もまた、自然を象徴する要素の1つ。
 特に陽の光は、刻一刻と変わる上に、天気や季節、雲の流れにすらも左右されるので、とても変化に富んでいます。
 そこで、この『光の廓』では、光を使って『外』を表現しました。
 そもそもこの土地は、8割が日陰なので、普通に窓を開けたところで、薄暗い印象は拭えません。 " だったら‶と、あえて閉ざし、天 井をラウンドするように採光用の窓を開け、天から注ぐ陽の光が空間を包み込むようにしたんです。すると、外にいる以上に、光の移ろいが敏感に感じられる不思議な空間ができました。

写真:中村絵

 さらに、プライベートな部屋をそれぞれ建物のように独立させ、廊下を路地に見立てた小さな街並みをつくりました。つまり、自分の部屋が小さな家で、一歩出るとそこは街。しかも、そこが刻一刻と変化する光に満たされているとなると、ほとんど『外』にいる感覚になります。

白い箱のような部屋は、プライベートスペース。間 を繋ぐフローリングの空間は、リビングやダイニン グといった家族の共有スペース。 写真:中村絵

家を囲むように土間がある。玄関から裏へ抜ける土 間は、まるで抜け道のよう。 写真:中村絵

周りを囲む土間には、洗面台やキッチンなど、ワー クスペースが配置されている。 写真:中村絵

天井の一角。光は、空間を包み込むように、天井を ラウンドする隙間から差し込む。 写真:中村絵

 でも、閉ざしているからと言って、社会を遮断している訳ではありません。家の中ですが『外』ですし、周囲は土間なので、第三者も意外に入って来やすいんです」。
 『ソト』を取り込む方法は、開くばかりではなく、あえて閉ざすという手もあるようだ。全ては、住み手の体感で決まる。

取材協力

川本敦史
建築家。川本まゆみと共に、株式会社エムエー スタイル建築計画の代表を務める。建築事務 所勤務や建築家に師事することもなく、デザイ ンの世界からこの世界に飛び込み、自由でアイ デア溢れる創作を展開。スタイリッシュであり ながら、有機的な空間を生み出している。

株式会社エムエースタイル建築計画
2004年設立 静岡県牧之原市細江212-38
tel.0548-23-0970 www.ma-style.jp/
2013年 第1回JIA東海住宅建築賞2013「光の郭」大賞
2013年 LIXILデザインコンテスト2013「光の郭」銀賞
2017年 住まいの環境デザインアワード2017「azmaya house」優秀賞
2017年 第5回JIA東海住宅建築賞2017「光庭の棲」優秀賞